化学業界の雄である三井化学は、2019年03月期まで3期連続で過去最高益を更新するという快挙を成し遂げています。好調な業績を背景に、久保雅晴副社長も「成果は出てきている」と、事業構造改革の手応えを語っておられることでしょう。しかしながら、その株価は、この1年半もの間、じりじりと下落を続けているのです。この最高益更新と株価低迷という、一見すると矛盾する状況の裏側には、同社が長年取り組んできた事業ポートフォリオの改革の進捗状況が大きく関係していると推測されます。
三井化学は、リーマン・ショックを契機として業績が大きく落ち込み、2012年03月期から2014年03月期にかけて3期連続の最終赤字を計上するという苦しい時期を経験しました。この苦境を乗り越えるため、2014年から本格的に事業体質の変革、すなわち事業ポートフォリオの改革に着手したのです。この改革の目的は、市況の変動に大きく左右される体質からの脱却、つまり「市況連動株」というレッテルを払拭することにほかなりません。しかし、現在の市場の評価を見る限り、そのレッテルはまだ払拭できていないのが現状だと言えるでしょう。
2014年に策定された中期的な目標では、2020年前後までに営業利益1,000億円の達成を目指していました。そして、2019年03月期の営業利益は934億円となり、目標にほぼ手が届く水準にまで達しています。この点だけを見れば、改革は順調に進んでいるように見えます。しかし、問題はその内訳です。同社が目指したのは、自動車関連、食品包装、ヘルスケアという3つの成長分野の割合を高めることでした。
当初の計画では、景気変動の影響を受けやすい石化製品などの基盤素材事業の割合を全体のわずか10%にまで引き下げ、自動車関連を40%、ヘルスケアを30%、食品包装事業を20%に引き上げるという、大胆な構造転換が描かれていました。ところが、2019年03月期の実際の構成比を見てみると、石化製品を含む基盤素材事業が依然として約30%を占めているのです。これは、市況連動性を低減するという目標に対し、依然として高い依存度を示していると言わざるを得ません。一方、注力すべきヘルスケア事業の割合は、目標の30%には遠く及ばない13%にとどまっています。
ヘルスケア事業のテコ入れが急務
同社のヘルスケア事業は、眼鏡のレンズ材料や歯科材料、そして紙おむつなどに使われる不織布などを取り扱っています。これらの分野は、少子高齢化が進む日本国内はもとより、世界的な需要の増加が見込まれる安定的な成長市場です。この成長を取り込むべく、同社は2013年に約500億円を投じ、ドイツのメーカーの歯科材料部門を買収するという大きな一歩を踏み出しました。しかし、買収した事業は期待通りに利益が伸びず、結果として減損処理を余儀なくされてしまったという苦い経験があります。減損処理とは、投資した資産の収益性が低下した際に、その価値を簿価から引き下げる会計処理であり、投資の失敗を示すサインとも言えるでしょう。
この買収したドイツ企業については、淡輪敏社長から「のれんを全額減損して償却負担が軽減されたほか、様々な施策で少しずつ利益に貢献できる体制になってきた」との発言がありました。「のれん」とは、買収された企業のブランド力や技術力など、帳簿には載らない無形の価値を指し、買収額と純資産の差額として計上されるものです。これを全額減損したことで、今後の収益圧迫要因が取り除かれ、ようやく利益貢献の目途が立ってきた状況と言えるでしょう。国内では、歯科用接着剤が堅調に推移しており、今後はこれを海外展開することで、事業規模の拡大を目指していると見られます。
三井化学は、最高益を継続的に更新する中で、現金及び現金同等物、すなわちすぐに使える資金が約1,100億円にまで積み上がっています。これは、同社の時価総額の2割強にも相当する潤沢な資金力です。この豊富な資金力を活用し、「市況連動株」のレッテルを完全に振り払うためには、安定的で成長性の高いヘルスケア分野への追加投資が不可欠だと私は考えます。市場の関心は、次なる成長の「一手」がいつ、どこに打たれるかに集中しているでしょう。特に、最高益が続く好環境下だからこそ、将来の事業基盤を確固たるものにするための、戦略的なM&Aや設備投資が必要不可欠です。
SNSでの反響と今後の展望
SNS上でも、三井化学の業績と株価の乖離は話題になっており、「業績がいいのに株価が上がらないのは、やっぱり石化依存が強すぎるからだ」「高機能材の比率をもっと上げて、景気変動に強い企業に変わってほしい」といった意見が多く見受けられます。また、「ヘルスケア分野は、一度失敗しても粘り強く育ててほしい」「潤沢なキャッシュを使って、思い切った買収に踏み切るべきだ」といった、経営戦略に対する具体的な提言も寄せられています。実際に、需要が増加する一方で、石化各社の設備縮小により合成樹脂の品薄感が続いているという現状は、短期的には基盤素材事業の利益を押し上げますが、長期的なリスクは変わりません。
現在の三井化学は、まさに成長の踊り場に立たされていると言えるでしょう。最高益という揺るぎない実績と、豊富な手元資金という強力な武器を持っています。今こそ、中期経営計画の目標達成にこだわるだけでなく、真の意味で「脱・市況連動」を実現するための、大胆かつ迅速な戦略投資が求められているのではないでしょうか。特に、ヘルスケア事業の成長は、企業の安定性と将来性を市場にアピールするための最重要課題であり、その動向に今後も注目が集まるでしょう。
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