近年、飲食業界で従来の常識を覆すユニークなサービスが話題を集めています。その代表例が、うどんチェーン店「丸亀製麺」が展開する「30分飲み放題」です。一般的に居酒屋の飲み放題といえば2時間制が定番ですが、この短時間設定が、東京都心部のビジネスパーソンを中心に熱狂的な支持を得て、大ヒットの裏側には、現代の消費者の節約志向や時短ニーズが深く関係していることがうかがえます。
トリドールホールディングスが運営する丸亀製麺のハマサイト店(東京・港区)では、特に午後5時以降、スーツ姿の会社員が続々と集まる光景が見られます。会計を済ませた客が、自分でサーバーから生ビールを注いで喉を潤すスタイルは、まるで居酒屋さながらです。来店客の会社員・江崎慎司さん(40)も「安いから手軽に飲みに行ける」と魅力を語っています。この30分飲み放題は、1,000円から1,300円の料金設定で提供されており、1,000円のコースではうどんまたは卵とじに加え、天ぷらなど豊富な総菜から2品を選べるという、非常にコストパフォーマンスの高い内容となっています。
飲み放題のアルコールメニューは、「キリン一番搾り」の生ビールをはじめ、ハイボールやレモンチューハイ、さらに麦焼酎「二階堂」や芋焼酎「黒霧島」まで用意されている充実ぶりです。ここでいう30分とは、お酒を注ぎに行ける時間であり、最後の1杯はゆっくり楽しむことができるため、実質的な滞在時間はもう少し長くなるというのも嬉しいポイントです。丸亀製麺は近年、ハマサイト店のように都心のオフィスビルへの出店を強化しており、昼間に比べて客足が減りがちな夜間の集客対策として、2016年6月から都市部の比較的席数の多い店舗に限定してこのサービスを導入しました。その結果、夜間の平均客数が1日あたり100~150人程度の店舗で、なんと来客数が100人程度増えるという驚異的な成果を上げています。
「手軽に酔いたい」消費者心理と”高アル”チューハイブームの共通点
この30分飲み放題の人気を支える根底には、「手軽に酔いたい」という現代の消費者心理が色濃く反映されていると考えられます。その証拠に、アルコール度数が高い**高アルコール(高アル)**分野の缶チューハイが爆発的な人気を集めている現象と軌を一にしています。高アルコール飲料とは、一般的なビールやチューハイよりもアルコール度数が高いお酒のことで、その代表的なものがアルコール度数9%前後の缶チューハイです。消費者、特に節約志向の強い層が、短い時間で、あるいは少ない本数で効果的に酔いを得たいというニーズが高まっているため、高アル飲料が市場で台頭しているのです。丸亀製麺の30分飲み放題も、江崎さんが週1回のペースで来店し、時には6~7杯も飲み干すという「飲んべえ」にはたまらない時間設定と料金体系が、まさにこの「手軽に酔いたい」という需要を見事に捉えていると言えるでしょう。
このサービスが、SNSなどでも大きな反響を呼んでいることは想像に難くありません。「サクッと飲んで帰れるのが最高」「コスパ最強」「飲みの時間が決められているからだらだらせずに済む」といった、ポジティブな意見が多く見受けられます。特に、うどんや天ぷらといった食事と一緒に飲めるという点が、居酒屋に行くほどではないけれど少しだけ飲みたいという「ちょい飲み」のニーズに合致し、多くのフォロワーの共感を呼んでいる模様です。
「働き方改革」が後押しする新時代の「飲みニケーション」
さらに、この30分飲み放題の成功を後押ししている大きな要因として、働き方改革の進展が挙げられます。残業時間の削減が叫ばれる昨今、長時間にわたる上司と部下の「飲みニケーション」(アルコールを伴うコミュニケーション)は、特に若いビジネスパーソンから敬遠されがちです。しかし、「30分」という明確な時間制限があれば、話は変わってきます。江崎さんが部下の岩切涼香さん(20)を誘って来店している例からもわかるように、江崎さんは「30分なら後輩も誘いやすい」と感じ、一方の岩切さんも「ぱっと飲んで帰れるので誘われたら行きたいと素直に思える」と話しています。
私見ではありますが、丸亀製麺のこの戦略は、単なる低価格路線ではなく、現代社会の時間価値の最大化というトレンドに非常にマッチしていると強く感じます。ダラダラと続く飲みの場ではなく、「短い時間で」「安く」「必要なコミュニケーションだけを取る」という、まさに時代のニーズを反映した合理的な消費行動を促しているのです。働く女性の増加で昼間の宴会に注力する居酒屋もあれば、丸亀製麺や牛丼チェーンのように、ファストフード店が「ちょい飲み」という新たな市場を開拓する動きも活発化しています。もはや王道のサービスだけでは、刻々と変化する現代の消費者の多様なニーズは掴みきれません。丸亀製麺の30分飲み放題は、新たな時代の「ちょい飲み」文化を築く、非常に賢明で魅力的な戦略だと言えるでしょう。
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