近年、消費者の間で「経年変化(けいねんへんか)」を楽しむアイテムへの関心が急速に高まっています。経年変化とは、年月が経つにつれて素材の色合いや質感などが変化していくことを指し、使い込むほどに深い味わいやツヤが増していくのが最大の魅力です。ピカピカの新品の状態から、自分だけの傷やシワ、色の深みを刻みつけ、世界に一つだけのオンリーワンのアイテムへと育てる喜びが、多くの人々を惹きつけています。たとえ多少価格が高くても、長く愛用することで得られる特別な価値や、愛着のあるモノを求める「自分買い」の傾向が強まっていると言えるでしょう。
特に目を引くのが、銅製の調理器具です。家庭用調理器具を開発するオークス(新潟県三条市)が手掛ける「ameiro(アメイロ)」シリーズは、「使うほどに深いあめ色に変化する」をコンセプトに、2017年10月に発売されました。フライパンや鍋など、税別1万5千円から2万円という価格帯ながら、「高価でも長く使えて価値がある物を求める消費者」に向けて誕生した商品です。岐阜県神戸町にお住まいの主婦、町田琴美さん(34)は、2019年4月に夫から結婚7周年の**「銅婚式」**にちなんで贈られたこの銅製フライパンの色が変わっていくのを大変楽しみにされています。初めて使う日を次男の1歳の誕生日である8月に、記憶に残る日としてホットケーキを焼くと決めているそうで、「子どもたちに物を大事にする心を伝えたい」という想いも込められているのです。
また、すでにこのameiroシリーズを1年半使っているという奈良県生駒市の会社員、池野奥英倫さん(33)は、「毎回色が変わっていくのが面白い」と、その変化自体を楽しまれています。銅は熱伝導率が高いため、料理の仕上がりも優れており、特に卵焼きを焼くと「ふわっとするなど料理もおいしく仕上がる」とのこと。機能性だけでなく、その変化の過程も含めて愛着が深まるのが、経年変化を楽しむアイテムの大きな特徴です。このように、消費者にとっての「特別な物」や「長く使える価値」が、購入の動機として非常に重要になっている様子が伺えるでしょう。
子どもの成長と重ねて経年変化を楽しむアイテムも登場しています。革靴や革小物のブランド「エンダースキーマ」が受注を開始したランドセルは、使い込むと段々とツヤが出てくるヌメ革を使用しています。ヌメ革とは、植物のタンニン(渋)を使って時間をかけてなめし、表面加工をほとんど施していない革のことで、自然な風合いと耐久性の高さ、そして何より使い込むほどに色合いが濃くなりツヤが増す経年変化の美しさが魅力です。同ブランドは「6年間の子どもの成長を刻んでほしい」という願いを込めており、価格は税別12万円と22万円ですが、革製品好きの親からの申し込みが多いようです。三越伊勢丹のオンラインストアなどで受け付け、来春に手元に届くこのランドセルは、まさに**「モノを大事にする心」**を親子で共有するための、思い出を刻むアイテムとなるに違いありません。
身につけるモノの経年変化にも、新たな楽しみ方が生まれています。例えば、名古屋市の教師、上田達也さん(31)は、愛用する革靴の記録をノートにつけているそうです。靴磨き前後の写真を並べて貼ったり、手入れに使ったクリームの種類や感想などを細かく書き留めており、「はきじわが入ったり、ぶつけた傷を直したり。我が子の成長記録をつけるような気持ち」だと語っています。彼が使っているのは、枻出版社(東京・世田谷)の「やりこみノート」(1,296円)という、変化の過程を写真とともに書き込むための専用ノートです。2018年12月以降、革靴、デニム、革ジャン用が発売されており、長野県千曲市の会社員、朝比奈孝さん(36)もこのノートを使うことで「手書きなので靴への愛着がさらにわく」と話しています。単にモノを所有するだけでなく、その手入れや変化を「記録」として残すことで、愛着を深めるという新しい文化が広がりを見せています。
また、ファッションアイテムの中でも、特にデニムの経年変化は愛好家にとって究極の楽しみの一つです。2019年3月には、盛岡市の男性公務員(24)が「他にはない個性だ」として、一風変わったデニムをネットで2本購入されました。それは、ポケットがない「ゼロポケットデニム」です。このデニムは、ファッションユーチューバーのハズムさん(25)が「究極の経年変化デニム」として企画し、2018年11月に自身のセレクトショップ「DAN」(東京・目黒)とそのネットショップで発売した商品です。「ポケットは色落ちを楽しむ目的ならいらないのでは」という発想のもと、ポケットをあえてなくすことで、生地本来の美しい色落ちを際立たせています。
生地には岡山県産のデニムが使われ、ピュアインディゴのみで染め、防縮などの加工を一切施さないという、一般的な製法とは異なるこだわりが詰まっています。ピュアインディゴとは、合成染料を混ぜずにインディゴ(藍)のみで染める手法で、これによって「ありのままのデニムで鮮やかな色落ち」が楽しめると言います。テーパードとワイドの2型があり、価格は税別2万4千円と2万5千円です。発売直後から20代から40代の男性を中心に大きな反響を呼び、すぐに完売。追加生産分もほぼ売り切れ、さらに増産されるなど、その人気は絶大です。これまでに合計で約200本を販売し、2019年7月にはポケットがないデニムジャケットの発売も予定されています。
私自身の考えですが、ワンクリックでどんな新しい物でも簡単に手に入る現代社会だからこそ、この**「経年変化ブーム」は、単なる流行ではなく、消費者の根源的な欲求を満たすものだと感じています。多くのモノが溢れる中で、誰かと同じではなく、時間をかけて自分だけの「色」や「歴史」を積み重ねていくという行為は、自己肯定感や所有する喜び**を強く刺激するのではないでしょうか。付いた傷も、使い続けたツヤも、全てが「私だけのストーリー」となり、そのモノへの愛着を深めてくれます。こうした「お金では買えない価値」を求める姿勢は、今後もますます強まっていくことでしょう。使い手の想いと時間が加わることで真価を発揮するこれらのアイテムは、サステナブルな消費という観点からも、非常に意義深い選択肢であると言えるでしょう。
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