【デジタル時代の国際秩序】AI時代の覇権を握る鍵は「デジタルTPP」構築か?ユーラシア・グループCEOが提言する日米欧連携の重要性

2019年6月4日、アジアの国際会議「第25回アジアの未来」において、世界的な政治リスクコンサルティング会社であるユーラシア・グループの社長、イアン・ブレマー氏がビデオ講演を行い、アジアの未来を巡る重要な洞察を披露しました。ブレマー氏は、近年アジア地域において、アメリカ合衆国(米国)が指導力を発揮しなくなりつつあるという現状を指摘されました。これに対し、中国を除くアジアの国々は、これまで西側諸国が主導してきた国際的な制度や規範を、安易に変えるべきではないという見解を示されています。この発言は、アジア各国が直面する国際環境の変化と、今後の戦略的選択の難しさを明確に示していると言えるでしょう。

経済面では、環太平洋経済連携協定(TPP)から米国が離脱した後、残りの11カ国で発効されたTPP11によって、貿易分野での多国間協力は前進している状況です。しかし、安全保障分野については、米国が提供してきた「安全保障の傘」、すなわち米軍による防衛力が弱まる一方で、中華人民共和国(中国)がアジアにおける支配的な勢力となりつつあるため、アジア各国が取るべき選択肢は限られてきているという厳しい現実が語られました。このパワーバランスの変化は、アジア全体の安定性に影響を及ぼす非常に重要な懸念事項であり、各国が慎重な対応を迫られているのです。

このような状況下で、ブレマー氏が特に可能性を見出すのが、テクノロジー分野における**「デジタルTPP」の構想です。これは、日本、米国、欧州といった先進的な民主主義国家が連携し、デジタル経済における新たなルールメイキングを行うことを目指すもので、現時点で中国がテクノロジー超大国化することは、米国やその同盟国の利益にはそぐわないとの分析に基づいています。米国はイノベーションを担う起業家精神に富み、欧州連合(EU)は一般データ保護規則(GDPR)**に代表されるように、個人のデータ保護やプライバシーを重視する先進的な規制を有し、そして日本もまた、高い技術力を背景に先進技術の活用が進んでいます。これらの国々が団結すれば、中国が参加せざるを得ないほど魅力的なデジタルシステムの構築が可能になるという、非常に野心的な提案であります。

私見として、この「デジタルTPP」構想は、地政学的な対立が深まる現代において、非常に現実的かつ戦略的なアプローチであると評価できます。技術のルールは、そのまま将来の国際的な経済・社会システムを決定づけます。そのため、日米欧が自由でオープンな原則に基づいたデジタルルールを先行して構築することは、アジアのみならず、世界のデジタル空間における**「自由と民主主義」の価値観を守る上で極めて重要であると考えるものです。これにより、デジタル分野での中国依存のリスクを軽減**し、国際的なデジタル標準設定において主導権を確保できるでしょう。

ブレマー氏は、中国が推進する広域経済圏構想、**「一帯一路」**についても言及されました。「一帯一路」は一見包摂的(包括的で多くのものを内包する)に見えますが、実際には中国の基準やルールを押し付ける側面があり、この構想に支配された国々では中国の基準を順守せざるを得なくなると警告されています。その結果、例えば日本企業がそうした国々に投資を行い、事業を進めることが、極めて困難になる可能性が出てくるのです。この指摘は、中国の経済的影響力の拡大が、アジアにおける自由な市場経済の発展を阻害し、最終的に日本の国益にも影響を与えかねないという、地政学的な経済リスクを示唆していると言えるでしょう。

このブレマー氏の講演内容は、発表された2019年6月当時、SNSなどでも大きな反響を呼びました。特に「デジタルTPP」という概念は、米中貿易戦争の激化や、ファーウェイを巡る安全保障上の懸念が取り沙汰されていた時期であったため、「デジタル冷戦の始まりか」「日米欧の連携強化は必須だ」といった、国際政治の構造変化に対する危機感や期待感が入り混じった意見が多数見受けられました。データ主権やAI技術の覇権争いが深刻化する中、アジアの安定と繁栄のためには、単なる貿易協定に留まらない、デジタル技術を基盤とした新たな国際秩序の構築が急務であるという、ブレマー氏のメッセージは非常に重いものとして受け止められていると言えるでしょう。

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