🔥人生100年時代と就職氷河期を救う鍵は?厚労省の「待ったなし」の課題と、大胆な組織改革案を徹底解説!

2019年6月4日に掲載された江利川毅・医療科学研究所理事長(元厚生労働事務次官)の論説は、少子高齢化や就職氷河期世代の支援といった、現代日本が抱える根深い政策課題に焦点を当て、厚生労働省(厚労省)が直面する現状と、その体制がどうあるべきかについて提言しています。為政者のあるべき姿を示す「民は之に由らしむ可し。之を知らしむ可からず」という陽明学者・安岡正篤氏の言葉を引用し、国民からの尊敬と信頼を得る重要性を説く筆者の、現役時代の熱い決意が伝わってくる内容です。

筆者は、かつて自身が勤務した厚労省で不祥事や不手際が起きていることを非常に残念に思いながら、職員一人ひとりが入省時の高い志を再認識し、国民の声に真摯に耳を傾け、負託、すなわち国民から託された責務に応えるよう努力を尽くすべきだと強く訴えています。組織の仕事量や予算の多さから、厚労省を分割すべきという意見もありますが、筆者は単なる量的な問題であれば体制強化やガバナンス(組織統治の仕組み)の改善で対応可能とし、体制整備は厚労省が関わる政策課題への最善の対応策として考えるべきだと主張しています。

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高齢化対策:人生100年時代に対応できる働き方とは

厚労省が取り組むべき第1の政策課題は、高齢化への対応、特に人生100年時代を見据えた対策です。50年前は「人生70年」と言われていましたが、今や寿命が大幅に延び、「人生100年」という言葉が一般的になっています。日本老年学会と日本老年医学会は2017年1月に、高齢者の定義を75歳以上、超高齢者を90歳以上に見直す提言を出しており、総人口に占める75歳以上の割合は、2065年には25.5%に達すると見込まれています。

長寿化に伴い、生涯で必要となる経費も増加しますから、その分、追加的な働き方が求められます。しかし、現状では人生100年時代にふさわしい働く場所が十分に用意されているとは言えません。筆者は、官民が協力し、経験豊富な75歳までの労働力を積極的に活用するための環境整備が急務だと提言しています。働くことは、本人の生きがいや健康維持につながるだけでなく、年金制度の安定にも直結する極めて重要な取り組みです。

この就労・転職の支援策と雇用政策に基づいた年金制度の設計は密接に関連するため、厚生労働大臣の一貫した責任のもとで進めることが、最も合理的で効果的であるとしています。このように、高齢化への対応は、単に医療や介護の問題に留まらず、労働、年金といった社会全体の仕組みに関わる、非常に複合的な課題なのです。

就職氷河期世代支援:官民一体で未来のセーフティネットを築く

第2の重要な政策課題は、就職氷河期世代への対応です。1971年から1974年生まれの団塊ジュニアとその周辺世代は、就職活動の時期に不況に直面し、希望に反して非正規雇用とならざるを得なかった人々が多くいます。いまだに正規雇用への移行が叶わず、結果として年金額や貯蓄が少ない人が目立つのです。

未婚者も多く、老後に困窮した場合に助け合える家族がいないという深刻な状況も懸念されています。このままでは、将来的に生活保護などの社会的支援を必要とする人が大量に発生し、社会全体に大きな負担がかかることが予測されます。この問題への対応は、先々にかかる生活保護制度の財政にも大きく影響するため、厚生労働大臣が総合的な展望に立ち、就職氷河期世代の雇用問題に官民一体となって取り組むことが適当だと筆者は述べています。

安倍晋三首相(当時)も、この世代への対応検討を経済財政諮問会議で求めており、社会全体での取り組みが期待されます。具体的には、企業による給与体系の工夫や中途採用への積極的な取り組み、あるいは公的分野での雇用拡張などが考えられます。また、職業訓練や就職定着のための支援は、厚労省の重要な任務であり、その総合的な指揮が厚労相に求められるということでしょう。私は、この世代への支援は、単なる経済対策ではなく、日本社会の公平性と持続可能性を担保するための、未来への投資だと考えます。

少子化対策:副総理級の強力な司令塔が必須

そして、第3の、そして筆者が国難への対応と呼ぶ最重要課題が少子化対策です。近年、日本の合計特殊出生率(一人の女性が生涯に産む子どもの数)は1.4程度で停滞しており、この傾向が続けば、100年後の日本の人口は5千万人程度まで減少すると推計されています。これは、経済規模や社会の活力を根底から揺るがす危機的な状況と言わざるを得ません。

少子化対策には、不本意な非正規雇用の解消、仕事と家庭の両立を可能にする職場の理解、教育費負担の軽減、放課後学級・学童保育の整備、そして子どもの貧困問題への対応など、非常に多岐にわたる課題が含まれます。これらの対策は、関係府省だけでなく、企業や地域社会の協力が不可欠です。しかし、府省間での優先度に差が生じ、社会全体の危機感がまだ弱いことが、成果が上がらない一因と指摘されています。

筆者は、子育てを支える心温かな社会の創出を目標とし、各府省の施策を強力に推進し、企業や社会のマインドを一新するため、副総理級の大臣を担当に据え、強力な司令塔機能を与えるべきだと提言しています。この司令塔が官民に対し強いリーダーシップを発揮できるよう、予算のシーリング(予算上限)を別枠で考えることや、関係部局を集めた少子化対策庁の新設も一案として提案されており、抜本的な組織改革の必要性を示唆しています。

職員に求められる「行政運営の基本」と体制整備の必要性

一方で、仕事のミスや不手際といった問題は、組織改革だけで改善できるものではありません。筆者は、国民から信頼され続けるために、厚労省職員が立ち返るべき行政運営の基本を4点挙げています。

第1に、国民への説明と理解です。厚労行政は国民生活に直結するため、政策の立案過程や施策の実施状況など、常に国民への情報提供を心がけるべきです。また、統計資料は研究者にとって貴重ですが、利用手続きの煩雑さが指摘されており、多角的な意見を行政の改善につなげるため、前向きな対応が求められています。

第2に、現場を大切にすることです。施策の現場には様々な国民の声が集まり、時代や環境の変化が表れます。職員はこれらの声に耳を傾け、施策に反映させることが重要であり、「前例は参考でしかない」と、前例を乗り越える姿勢が肝心です。

第3に、仕事の進行管理の改善です。会議は忙しさから敬遠されがちですが、組織の課題を共有し、進捗状況を把握するだけでなく、担当者の悩みをくみ上げる機会でもあります。これが機能していれば防げた失敗もあったのではないかと、会議の重要性が指摘されています。

第4に、個々人の自覚と努力です。多くの職員が「人々の幸せを支える仕事がしたい」という高い志を持って入省しており、その志を忘れず、自己研さんに努めるべきです。新聞や偉人の著書から学び、様々な人の意見に謙虚に耳を傾け、意欲と見識をもって課題解決にあたる姿勢が求められます。

さらに筆者は、仕事量に見合った体制の整備が不可欠だと主張しています。日本の公務員の割合(雇用者全体に占める割合)は5.9%と、OECD加盟国の平均の3分の1程度で最も低い水準にあり、単純な公務員削減は無理があるとしています。大きな課題が山積し、全省庁の中で残業時間が最も多い厚労省には、仕事に見合う体制の増強が必須です。また、国会答弁の多さが職員の負担となっていることから、副大臣や局長などの活用、質問通告の早期化といった、国会側の工夫も要望されています。

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