首都圏での就職活動は、地方の学生にとって多大な経済的負担と時間的コストを強いる大きな壁となっています。そんな中、最近、地方出身の就活生から熱い視線を集めているのが「就活シェアハウス」です。これは、全国の大学から上京した学生たちが一堂に会し、寝食を共にしながら内定獲得を目指す、いわば東京での就活のベースキャンプとして機能しています。仲間と進路の悩みを分かち合ったり、時には気分転換に出かけたりと、互いに支え合いながら夢に向かって突き進む、地方学生たちのリアルな就活の現場に迫ってみましょう。
東京都中野区の閑静な住宅街に位置する「就活シェアハウス新中野」は、一見するとごく一般的な一軒家ですが、玄関の扉を開けると、ズラリと並んだビジネスシューズが、ここで繰り広げられる熱い戦いを物語っています。記者が2019年4月中旬に訪問した夜の時間帯、リビングダイニングの共用スペースでは、学生たちがパソコンを囲んで真剣に話し合っていました。そのやり取りは「明日、最終面接なんやけど」「ちょっと志望理由、見てくれへん?」といった、まさに就活真っ只中のリアルな交流です。就活シェアハウスの最大の強みは、この学生同士が気軽に繋がり、切磋琢磨し合える環境にあると言えるでしょう。情報交換やアドバイスのやり取りは深夜まで続き、学生たちの熱意が空間を満たしています。
この就活シェアハウス事業を運営しているのは、地方学生向けの就職活動支援を行うスタートアップ企業「地方のミカタ」(東京・新宿)です。代表の岩本洋樹氏(30歳)は、京都大学大学院を中退された方で、ご自身が東京での就活に苦労された経験から、この事業を学生団体時代の2012年から手掛けていらっしゃいます。同社は現在、この分野における業界最大手として知られており、地方学生の就職活動を力強く後押ししています。
地方学生にとっての金銭的なメリットは計り知れません。例えば、テレビ局のアナウンサーを志望している島根大学4年生の島田英子さん(仮名)は、島根から東京への移動について、飛行機では往復で約6万円、夜行バスでも往復1万円かかるものの、片道12時間という長時間の移動を強いられるジレンマを語っています。たった30分間の面接のために、この高額な費用や過酷な移動時間を選ぶのは精神的にも肉体的にも辛い選択です。しかし、就活シェアハウス新中野であれば、1カ月間の滞在費は4万1,000円から4万8,000円程度と、飛行機代よりも安価に抑えることが可能です。宿泊費の低廉化は、地方学生がより多くの選考に参加できる機会を生み出すでしょう。
地方のミカタが展開する就活シェアハウスは、オーナーから賃貸住宅を借り受け、学生に転貸するビジネスモデルを採用しています。運営戸数は時期によって変動し、就活ピークである2月から3月にかけては都内で最大20戸を数えます。2019年6月現在では11戸の運営ですが、夏場にかけては**インターンシップ(就業体験)**に参加する大学3年生の利用も増加する見込みです。宿泊料金は立地や設備によって異なりますが、最も高価なタイプでも月額6万円を超えることはありません。1泊からの利用もできますが、多くは1カ月単位での滞在を選んでいらっしゃるそうです。
新中野の共用スペースには、冷蔵庫、電子レンジ、炊飯器などが完備されており、学生たちは自炊で食費を節約できます。寝室は2階の3部屋で、男子学生用の6人部屋が1つ、女子学生用の4人部屋が2つ設けられ、定員は合計14人です。記者が訪問した際は13人が入居しており、学生たちは少々手狭であることを認めつつも、その環境で共同生活を送っています。トイレは2つ、シャワーは1つしかないため、時間を譲り合う工夫が欠かせません。こうした生活の中での協力体制も、学生たちに社会に出る上での協調性や規律を育む良い機会になっているのではないでしょうか。
就活シェアハウスでの共同生活には、いくつかの「ルール」が定められています。飲酒・喫煙・金銭の貸し借り・宗教の勧誘・ペットの持ち込みは禁止されており、共同生活の秩序を保つ配慮がなされています。門限はありませんが、「午後10時から午前6時までは、就寝している人への配慮を求める」というルールもあります。こうした規律がある中でも、学生たちはすぐに打ち解け、まるで合宿所や寮生活のようなアットホームな雰囲気が生まれています。「毎晩ソファで誰かが寝てしまっていますね」「朝、家を出ようとすると『行ってらっしゃい』と声をかけられます」と、広島大学4年生の斉藤彩さん(仮名)は、このシェアハウスを「家」と呼び、自然体で過ごしている様子を笑顔で語っていました。
ただし、「家」のようにくつろげる反面、選考がない日はついダラダラ過ごしてしまうという側面もあるそうです。そのため、学生たちは人材会社が就活生向けに開放しているフリースペースなどに出向き、勉強や情報収集を行うなど、メリハリをつけて活動しています。これだけ多くの学生が共同生活を送ると、室内が散らかりやすいのでは、という懸念に対し、滞在していた弘前大学4年生の林拓郎さん(仮名)が答えてくれました。林さんは就活生ではなく、実は地方のミカタでインターンシップ中の学生で、シェアハウスに無料で寝泊まりする代わりに管理人の役目を任されています。彼はトイレや水回りの清掃、ゴミ出しといった日常の管理業務に加え、特に人間関係のケアに心を配っているそうです。
林さんは、新しい入居者が来た際には積極的に声をかけたり、古くからの入居者との間を取り持ったりと、誰もがすぐに溶け込めるように配慮しています。飲酒は禁止されていますが、近隣の居酒屋へ一緒に食事に出かけたり、共用スペースでケーキやお茶を楽しむなど、和やかな交流も生まれています。松山大学4年生の水野里奈さん(仮名)は、2019年4月半ばには、誕生日を迎えた学生や内定を得た学生のためにパーティーを開いたエピソードを披露してくれました。仲間と過ごす生活は、時には映画『ボヘミアン・ラプソディ』を皆で鑑賞しようと計画するなど、単なる宿泊施設を超えた濃密なコミュニティを形成していると言えるでしょう。
地方のミカタは、地方学生の**「経済格差」の解消を主要な目的として掲げ、就活シェアハウスの他にも、地方学生の活動拠点や交流スペースとなる「就活カフェ」を都内で運営しています。現状では、東京に本社を構える大企業による地方での選考実施や、「ネット面接」といったオンライン選考の導入は依然として限定的です。そのため、地元での就職を選択しない地方学生にとって、依然として就職活動の主な戦場は首都圏**にあります。同社取締役の佐久間大氏は、「地方学生向けの安価な宿泊施設はまだ数が足りていない」と述べ、この事業の必要性を強く感じていらっしゃるようです。
この共同生活は、楽しいことばかりではありません。水野さんは、周りの仲間と比較して自分の就活が進んでいないことに焦燥感を覚え、誰もいない玄関先でこっそり涙ながらに地元の友人に電話した経験も打ち明けてくれました。しかし、全国各地から集まり、多種多様な業界を目指す仲間たちから刺激を受けることで、「仕事に対する自分自身の考えが明確になった」とも話しています。これは、同じ境遇の仲間がいるからこそ乗り越えられる壁なのでしょう。私見ですが、この就活シェアハウスは、単に経済的な負担を減らすだけでなく、精神的な支えを提供し、学生たちの自己理解を深める貴重な場所となっていると考えられます。
東京にあまり馴染みのない地方学生にとって、このシェアハウスでの共同生活は、日常生活の全てから学びを得る機会にもなります。人の多さや都会の喧騒に慣れ、氾濫する情報を自力で取捨選択する力を養いながら、「東京で働く」ことへの具体的なイメージを形作っていくのです。就活シェアハウスは、まさに彼らが社会へ羽ばたくための重要な準備基地なのです。佐久間氏は、集団の中で暮らし、他者と意見を交換しながら自らを鍛錬してほしい、と学生たちに期待を寄せているそうです。地方学生の就職活動における新たなスタンダードとして、この「就活シェアハウス」は今後ますます存在感を高めていくに違いありません。
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