近年、私たちの生活を支える工場や発電所、化学プラントといった重要な社会インフラ施設へのサイバー攻撃の脅威が急速に高まっています。もしこれらの施設が機能不全に陥れば、その被害は計り知れません。そんな深刻な脅威に対し、電気通信大学の沢田賢治准教授らの研究チームが、画期的なサイバー防御技術を開発しました。これは、既存の防御策では難しかった「制御システム」そのものを守るための、極めて重要なイノベーションだと考えられるでしょう。
この新技術の核となるのは、機械のモーターやスイッチなどを動かす司令塔の役割を担う「制御装置(コントローラー)」に、特別なソフトウェアを組み込む点にあります。このソフトウェアは、あらかじめ設定された「正常な動作」以外の信号が送られた場合、即座にそれをサイバー攻撃の兆候として検知し、未然に防ぐことを可能とします。制御装置は、たとえネットワーク経由で攻撃を受けても、機械を正常に動かし続けるための「最後の砦」です。ここに強固な守りを築くことで、工場内の機器への攻撃の大半をシャットアウトできると期待されています。
過去の事例を見ても、サイバー攻撃が重要インフラに与える影響は甚大です。たとえば、イランではウラン濃縮施設が攻撃を受け、装置が物理的に破壊されるという事件が発生しています。また、ウクライナでは電力会社がサイバー攻撃の標的となり、大規模な停電を引き起こしました。日本国内では、幸いにしてこれまでに大きな被害は報告されていませんが、2020年の東京五輪を目前に控え、サイバーセキュリティへの備えは待ったなしの喫緊の課題となっています。
制御システムは、一度導入されると開発から20年以上にわたって稼働し続けるケースも珍しくありません。一般的なパソコンのセキュリティソフトのように頻繁な更新が困難な仕組みであるため、業務に支障を出さずに、確実に防御できる対策が必要とされてきました。沢田准教授らの手法では、工場の生産設備などで実際に使われているものと同じプログラミング言語を用いて対策ソフトを作成し、それを制御装置に直接組み込みます。これにより、例えばロボットアームであれば、「初期位置からアームを移動させ、モノをつかみ、持ち上げて置く」といった、決められた動作だけを許可する設定が可能です。これ以外の動きを命令する信号は、すべて不正な攻撃として見抜けるようになります。
研究チームは、さらに一歩進んだ技術として、人工知能(AI)を用いて平常時の動作パターンを自動で学習・把握するシステムも開発しているとのことです。沢田准教授は、「既存のセキュリティ対策と組み合わせれば、現実に起こりうる攻撃パターンの大半を検知できる」と、その有効性に大きな自信を見せています。この技術は、技術研究組合制御システムセキュリティセンターなどとの連携により、ガス製造工場を模擬した設備での実証実験も実施されました。この実験では、ガスタンク内の圧力を調整する制御装置に対し、実際の事例に基づいたサイバー攻撃を試みたところ、その異常をリアルタイムで検知することに成功したということです。
この革新的な技術が、2019年度中の実用化を目指しているという事実は、日本の重要インフラ防衛の大きな一歩となるでしょう。SNS上でも、「これは日本の技術が世界をリードするチャンス」「古い制御システムが多いインフラには必須の対策だ」といった期待の声が多く上がっており、社会的な関心の高さをうかがうことができます。
今後の展望と「分散型台帳技術」の役割
一方で、この新技術を制御装置に組み込む際の接続の安全確保が、現時点での大きな課題として挙げられています。制御装置自体が第三者に乗っ取られてしまうハイジャックの事態が発生した場合、対策が極めて困難になるためです。この課題をクリアするため、研究チームは今後、ブロックチェーン(分散型台帳)の技術を応用した、新たな防御システムの開発も視野に入れています。
ブロックチェーンとは、データの改ざんが非常に困難な仕組みを持つ技術で、デジタルな取引履歴を多数の参加者で共有・管理する「分散型台帳」の実現を可能にします。この技術を活用することで、個々の機械同士が自動的に「異常がないか」を認証し合うシステムを構築し、より強固なセキュリティ環境を実現できる見込みです。ネットワークを介した攻撃が巧妙化する現代において、制御システムに特化した防御策の開発は、社会の安全と安定を守る上で、何にも代えがたい価値があるといえるでしょう。私たちは、この日本発の技術が、世界中の重要インフラの安全に貢献することを強く期待しています。
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