2019年6月4日、化学業界のリーディングカンパニーである旭化成の川崎製造所(川崎市)が、顧客企業の用途開拓を強力に支援するCAE(コンピューター・エイデッド・エンジニアリング)の重要拠点として注目されています。この技術は、コンピューターシミュレーションを駆使し、自動車メーカーなどの高度なニーズに応え、金属部品の代わりに最も適した樹脂製品を選定・提案する、いわば「未来の素材」を導き出す羅針盤と言えるでしょう。
自動車部品をはじめとする分野では、鉄やアルミニウムといった従来の金属素材よりも軽量でありながら、同等の、あるいはそれ以上の機能性を持つ樹脂が求められています。川崎製造所内の樹脂CAE技術部には、この難題を解決したいと願う国内外の営業拠点から、日々、顧客の具体的な課題が寄せられているのです。研究員たちは、この課題に対し、高性能コンピューターを使って最適な物性の樹脂の組み合わせを徹底的に検証しています。
旭化成は、汎用樹脂だけでなく、耐熱性や強度に優れるエンジニアリングプラスチック、通称エンプラなどの高機能品を幅広く取り揃えている点が強みです。しかし、エンプラの主力製品であるナイロン樹脂(ポリアミド)だけでも、強度や耐衝撃性を高めるために混ぜるガラス繊維の混合量を変えることで、実に100種類もの品番が存在します。この膨大な選択肢の中から最適解を見つけ出すために、これまでに蓄積された膨大な研究データが、コンピューター上での仮想試作に活かされています。
金属代替の自動車部品などの開発において、樹脂が強度や耐熱性といった面で最大の機能を発揮できるよう、最適な部品の形状まで細かく提案している点が、旭化成の圧倒的な優位性です。樹脂CAE技術部の山口定彦部長が語るように、「顧客と部品の作り込みまで深く担うことで、他の素材メーカーとの差別化を図っている」のです。単に素材を売るだけでなく、顧客の製品開発プロセスに深く入り込む、ソリューション提供型のビジネスモデルへと進化していると言えます。
旭化成が川崎製造所内に樹脂のCAE拠点を設置したのは1990年代初めのことでした。設立当初は、材料の提案や簡単な成型方法のアドバイスに留まっていましたが、ここ10年ほどで、より綿密な部品設計の提案まで手を広げてきました。その結果、これまでに100社超の顧客企業と協業し、確かな実績を積み重ねています。特に、2019年春には、国内の大手自動車メーカーがエンジン回りの部品素材として旭化成のナイロン樹脂を初めて採用したという成功事例は、業界内で大きな話題を呼ぶでしょう。
このナイロン樹脂が採用された部品は、重量ベースで従来の鉄製部品の約半分という驚異的な軽量化を実現しました。欧州の自動車メーカーでは同様の部品に樹脂が使われた実績はありましたが、安全性など、より厳しい基準を設ける日本勢への採用は、旭化成にとって初めての快挙です。この成果は、旭化成が長年にわたるきめ細かい協業と高度な技術提案によって、日本の自動車産業の厳しい信頼基準を勝ち取った証であると、私は確信しています。
次世代モビリティと素材メーカーの新たな役割
最も有望なフロンティアは、やはり次世代自動車の開発分野でしょう。樹脂CAEを統括するポリマー技術開発総部の藤井修総部長は、「シートの骨格からドア部材、さらにはリチウムイオン電池のケースに至るまで、聖域なく樹脂化が広がるはず」との強い期待を示しています。車の軽量化は燃費向上や航続距離の延伸に直結するため、EV(電気自動車)開発が加速する現在、高性能樹脂のニーズは爆発的に高まる見込みです。
このような市場の動きを捉え、旭化成は2018年には米国の自動車内装材大手を約1200億円で買収しました。これは、製造業のサプライチェーンにおける、より川下(最終製品に近い領域)へと事業領域を広げるという明確な戦略を示しています。CAEを技術連携の核として活用し、顧客とのさらなる協業機会を探ることで、旭化成は単に素材を作って販売するだけの**「素材メーカー」の枠を超え、自動車産業のイノベーションを牽引するパートナーとして、その存在感を高めたいと考えているのでしょう。
このニュースに対し、SNS上では「ついにエンプラが鉄の時代を終わらせるのか」「日本のモノづくりは素材の革新から生まれる」「CAEによるバーチャル試作で開発スピードが桁違いに上がるだろう」といった好意的な反響が多数見受けられます。特に、安全性に厳しい日本車への採用が決定したという事実は、樹脂素材の品質と信頼性が新たなレベルに到達したことを示しており、今後の産業構造の変化を予感させる、非常に示唆に富む出来事**だと私は評価します。
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