皆さんはご自身の運転免許証の裏面をじっくりと眺めたことはあるでしょうか。2019年07月11日、久しぶりに免許更新へ向かった私は、臓器提供の意思表示欄が非常に細やかになっている事実に驚かされました。日本は諸外国と比較して脳死移植の件数が極めて少なく、いわば移植医療の「発展途上国」とも言える状態です。国を挙げたこの取り組みは、そんな現状を打破するための切実な願いが込められているのでしょう。
移植医療において常に大きな壁として立ちはだかるのが「拒絶反応」という現象です。これは、自分の体内に取り込まれた他者の臓器を、免疫システムが「異物」と見なして一斉に攻撃を仕掛ける反応を指します。実は、最新の科学技術によって作り出される夢の「再生医療」による臓器であっても、この拒絶反応を回避することは容易ではありません。私たちの体は、それほどまでに厳格に自分と他人を区別する仕組みを備えているのです。
そもそも免疫細胞とは、自分自身の細胞以外の不純物を排除するために、体内で厳しい「エリート教育」を受けて誕生する精鋭部隊です。しかし、医学の進歩によってドナーの臓器という、かつての人類が経験したことのない「異物」が体内に入るようになりました。SNS上でも「体が新しい臓器を拒むのは、生命を守るための本能ゆえに切ない」といった声が散見されますが、まさに命を守るための防衛本能が、皮肉にも治療を妨げる原因となっているわけですね。
免疫抑制剤の功罪と次世代の切り札「免疫寛容」
この難題を解決したのが「免疫抑制剤」の登場でした。これは文字通り免疫の働きを抑え込む薬剤で、現在では多くの臓器移植において90%を超える成功率を支える立役者となっています。しかし、作用の裏には必ず反作用が存在するのが世の常です。免疫全体を弱めてしまうため、ウイルス感染症のリスクが高まるほか、長期的な服用は緑内障や糖尿病、さらには癌の発症リスクを増大させるという課題も浮き彫りになっています。
そこで今、世界中から熱い視線を浴びているのが「免疫寛容(めんえきかんよう)」という画期的な概念です。これは、特定の異物に対してだけは攻撃を仕掛けないようにする、人体に本来備わっている「ストッパー機能」を指します。2018年にノーベル賞を受賞された本庶佑氏のがん免疫研究も、この仕組みが深く関わっています。特定の対象にのみ反応を抑えることができれば、全身の免疫を低下させることなく、副作用を最小限に留めることが期待できるでしょう。
この最先端理論を実用化しようと奮闘しているのが、順天堂大学発のベンチャー企業「JUNTEN BIO」です。彼らは患者さんから取り出した免疫細胞に対し、ドナーの臓器を「これは敵ではない」と覚え込ませる、いわば「再教育」の技術を持っています。この教育済みの細胞を体内に戻すことで、従来の薬物療法に頼り切らない新しい移植医療の形が見えてきました。再生医療の普及に不可欠なこの技術は、今後ますます研究が加速していくはずです。
医療の未来を切り拓くこの挑戦は、病に苦しむ多くの方々にとって一筋の光となるに違いありません。私個人としては、科学が生命の神秘を解き明かし、より負担の少ない治療法が確立されることを切に願っています。もっとも、私自身の私生活において、お酒の飲み過ぎを理由に家族から受けている「拒絶反応」については、残念ながらまだ有効な解決策が見つかっていません。家庭内での「免疫寛容」を勝ち取るべく、私自身も日々努力を重ねていきたいところです。
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