がん治療の現場において、患者さんが自身の治療方針にどれだけ関与できているのでしょうか。2019年6月5日付けの記事では、東京大学病院准教授の中川恵一先生が、セカンドオピニオンを巡る実態と、患者さんの真のニーズについて鋭く指摘されています。セカンドオピニオンは1980年代にアメリカで始まった仕組みであり、当初は保険会社が費用対効果を比較し、保険費用削減を目的に導入された経緯があります。結果として医療費削減効果は限定的だったものの、患者さんの自主性を重んじるアメリカの風土の中で急速に普及した背景があるのです。
私たちが治療選択で後悔しないためには、このセカンドオピニオン制度を正しく理解し、活用することが極めて重要だと考えられます。セカンドオピニオンとは、主治医以外の医師に治療法や診断について意見を求めることを指す専門用語です。これにより、患者さんは多様な視点や情報を得て、納得のいく治療法を選び取る助けになるでしょう。
がん治療の現場で見過ごされている「患者の意向」
中川先生らのグループは、放射線治療装置メーカーのバリアン社と共同で、特定のがんの診断を受けた1,032人を対象に、がん治療におけるセカンドオピニオンの実態調査と分析を行いました。この調査は、子宮頸がん、前立腺がん、肺がん、頭頸部がん、食道がんなど、放射線治療単独や抗がん剤との併用によって手術と同等の効果が期待できるがん種を中心に実施されています。
驚くべきことに、がんの種類を問わず約9割の患者さんが医師から手術を推奨され、そのほとんどがそのまま治療を受けている実態が明らかになりました。一方で、放射線治療を受けた患者さんは2割強にとどまっています。さらに、自身の治療方針に「積極的に関与したい」と考えている患者さんは3割にすぎず、「すべて医師任せ」という方も3割を占めているのです。この結果から、多くの患者さんが治療選択において、受動的な立場に置かれている様子が垣間見えます。
また、セカンドオピニオンの認知度はほぼ全員が「知っている」と回答しましたが、実際に受診したことがあるのはわずか2割にとどまっています。ただし、乳がんや前立腺がんの患者さんでは、比較的セカンドオピニオンの受診経験者が多く、また、実際に放射線治療を選択した患者さんは、治療方針への関与に積極的で、セカンドオピニオンの受診率も高い傾向にあることが判明しました。これは、放射線治療という選択肢を選ぶにあたり、患者さん自身が積極的に情報を集め、治療への理解を深めているからではないでしょうか。
7割の患者が求める「説明」の壁
この調査で最も注目すべきは、「患者さんの意向が十分に満たされていない」という深刻な問題です。医師が推奨する治療法以外の選択肢、すなわち複数の治療法について知りたいと思っていた患者さんは7割強に上りました。しかし、実際に他の治療法に関する説明を受けたと答えた患者さんは、わずか4割強にとどまっています。
がんという重大な診断を受けたとき、患者さんは治療法の選択肢について少しでも多くの情報を求めたいと強く願っているはずです。にもかかわらず、実際には多様な選択肢が提示されていないという実情が、この調査で浮き彫りになったと言えるでしょう。このギャップは、医療提供者側と患者さん側の間に横たわる、情報提供とコミュニケーションの大きな課題を示唆しています。
「納得の治療」のためには患者と医療者の協働が不可欠
興味深いことに、調査結果では放射線治療を受けた患者さんの満足度が、手術を受けた患者さんよりも高いという結果も示されています。これは、放射線治療が手術と比較して、身体への負担が少なく、仕事や日常生活を維持しやすいといった特性も影響していると考えられます。そして、この治療を選択した患者さんが積極的に情報収集を行い、納得して治療に臨んだ結果とも推測できるでしょう。
私たち編集者は、患者さんが十分な情報に基づいて判断を下すことの重要性を強く訴えたいです。セカンドオピニオンを積極的に活用することも、その一つの手段です。がん治療は、単に病気を治すことだけでなく、その後の人生をどう送るかという**QOL(Quality of Life:生活の質)**にも直結する重大な決断です。したがって、患者さんが医療者とともに治療法を選ぶ体制の確立が心から望まれます。すべての患者さんが、「あの時、もっと別の情報を知っていればよかった」と後悔することのないよう、医療現場のより一層の情報公開と対話の促進を期待したいものです。
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