2019年6月4日の米株式市場では、ダウ工業株30種平均が前日比で512ドル高と大幅に続伸しました。この急騰を支えたのは、激化が懸念されていた貿易摩擦に対する懸念の後退と、米連邦準備理事会(FRB)による利下げへの強い期待感でしょう。市場の不安定な動きを背景に、投資家はFRBという**「最後の砦」に望みを託している状況が浮かび上がってきました。
特に注目の動きとして、中国商務省が2019年6月4日に「(米中)双方間の摩擦は最終的には対話と協議を通じて解決される必要があると確信している」との前向きな声明を発表しました。これを受けて、貿易戦争がさらにエスカレートするとの懸念が和らぎ、ダウ平均は約140ドル高で取引をスタートさせたのです。さらに、トランプ政権がメキシコに対して発動を警告していた追加関税についても、米共和党議員が阻止へ動いているとの報道が流れ、市場心理を一段と改善させました。
しかし、この日の市場の最大の焦点は、ジェローム・パウエルFRB議長の発言でした。パウエル議長は2019年6月4日の講演で、貿易問題が米経済に及ぼす影響を鋭く注視していると強調し、「景気拡大を持続させるために我々は適切な行動をとる」と述べました。これは、必要と判断すれば政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利を引き下げる、すなわち利下げに踏み切る可能性を示唆する強いメッセージと受け止められています。
パウエル議長の発言は、長期的な金融政策の見直しをテーマにしたシカゴでの会議でのもので、貿易問題への言及はこの一言に留まりました。にもかかわらず、貿易摩擦の激化による先行き不透明感で冷え込んでいた米株市場にとって、この「適切な行動」という言葉は、まさに買い戻しを加速させる決定的なきっかけとなりました。講演後、ダウ平均は勢いよく上げ幅を広げたのです。市場は、このFRBトップの言葉を、景気の下支えへの強い意志の表れとして歓迎していると言えるでしょう。
金融当局(FRB)への高まる期待と市場の波乱リスク
現在、市場ではFRBによる利下げへの期待が急速に高まっています。その背景にあるのは、貿易戦争の激化による景気減速懸念です。例えば、バンクオブアメリカ・メリルリンチは2019年6月4日付のリポートで、貿易戦争のエスカレーションを理由に、米国の国内総生産(GDP)成長率の予想を下方修正しました。さらに、同行は政策金利の見通しも改定し、同年9月から翌年初めにかけて合計0.75%もの利下げが実施されると予測しています。
米JPモルガン・チェースや英バークレイズといった金融大手もまた、利下げの時期を早めるとの見方を示しており、年内には9月と12月の計2回の利下げを予想しているようです。この利下げ期待が一気に高まった引き金の一つが、トランプ政権によるメキシコ製品に対する追加関税の警告でした。メキシコは、米国との貿易額で中国、欧州連合(EU)に次いで第3位を占めますが、特にサプライチェーン(供給網)における米企業のメキシコへの依存度が高いため、経済への影響が大きいと懸念されています。
米政権は、違法な越境者を削減または停止しない限り関税を段階的に引き上げていくと警告しており、バンクオブアメリカ・メリルリンチは、このままでは同年夏までに関税率が15%まで引き上げられる可能性が高いと分析しています。このような外部環境の悪化を前に、FRBが金融政策で対応する、つまり利下げを行う金融緩和が必要だという見方が市場を席巻しているのでしょう。私見ですが、このFRBへの過度な期待は、現在の市場が抱える「不安の裏返し」であり、一種の「FRB依存症」とも言える状況だと感じています。
しかしながら、FRBに対する過度な利下げ期待は、今後の市場の波乱リスクをも内包していることに注意が必要です。市場は利下げを強く織り込み始めていますが、FRBの経済見通しが、そこまで大幅に変わったことを示す明確な兆しは、今のところ確認されていません。パウエル議長は、2019年6月4日の講演で足元の状況について「経済が成長し、失業率は低く、インフレ率は低く安定している」と説明し、景気のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)は堅調であるとの認識を示しています。
また、クラリダ副議長も米CNBCテレビのインタビューで、中国製品への関税の影響はまだ限定的であり、「米経済は良い場所にいる」とコメントしています。同副議長は、市場の動向は注視するものの、金融政策の判断が市場の動きに「縛られることはない」とも明言し、市場の期待と金融当局の現実との間に、微妙な温度差があることを示唆していると言えるでしょう。
実際にFRBが利下げに踏み切るには、実体経済の明確な弱さを示す経済データが必要となります。利下げ期待が強まる一方で、もしFRBがこの期待に対して政策判断の伝達、つまりコミュニケーションを誤った場合、市場が大きく動揺するリスクが高まっています。これは、FRBが今、非常に難しい舵取りを迫られていることを意味するでしょう。2019年6月18日から19日に開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)**に向けて、FRBの政策判断に一喜一憂する、綱渡り相場が続くことになりそうです。
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