東南アジア最大の経済規模を誇るインドネシアにおいて、長らく右肩上がりを続けてきた自動車市場が、現在大きな転換点を迎えています。2019年07月20日、現地の新車販売に4年ぶりとなる前年割れの懸念が浮上しました。2018年には115万台を記録した市場ですが、2019年01月から06月の累計販売台数は前年同期比13%減の48万台と、明らかにブレーキがかかっている状態です。
この失速の背景には、2019年04月に実施された大統領選挙に伴う買い控えや、主要輸出製品である石炭・パーム油の価格下落による景気後退が影響しています。SNS上では「ローン審査が厳しくなった」「政治の安定を待ってから買いたい」といった消費者の慎重な声が目立っており、かつて夢想された「2020年までの200万台市場達成」というシナリオは、今や遠い目標へと姿を変えてしまいました。
しかし、日系メーカー各社は依然としてインドネシアを最重要拠点と見なしています。その理由は、国民1人あたりの国内総生産(GDP)が約4000ドルに達し、モータリゼーション(自動車が広く一般家庭に普及する現象)の目安とされる5000ドルが目前に迫っているからです。ダイハツ工業の奥平総一郎社長が「少し踊り場にさしかかっただけ」と述べるように、各社は一時的な足踏みと捉え、投資の手を緩めていません。
輸出拡大と次世代サービスMaaSへの戦略的シフト
国内需要の低迷を補うべく、各社が注力しているのが「輸出」の強化です。これまでは国内向け生産が中心でしたが、部品サプライヤーの集積により現地調達率が向上したことで、インドネシアは世界への供給基地へと進化しました。三菱自動車はミニバン「エクスパンダー」の輸出を加速させ、スズキも新型「キャリイ」を約100カ国へ届ける構想を描くなど、2019年01月から05月の輸出台数は前年同期比18%増と絶好調です。
さらに注目すべきは「MaaS(マース)」への対応でしょう。これは「Mobility as a Service」の略称で、自家用車を所有するのではなく、あらゆる移動手段をITで統合し、一つのサービスとして利用する概念を指します。三菱自動車が配車大手のゴジェックへ出資し、トヨタ自動車もグラブとの連携を深めるなど、モノ売りからサービス提供へのパラダイムシフトが、ジャカルタの渋滞の波の中で着々と進行しているのです。
ジョコ大統領が掲げる「電動車(EV)大国」への野心も、日系企業を突き動かしています。トヨタは今後4年間で約2100億円という巨額投資を決定し、日産自動車も2020年に「リーフ」の投入を計画しています。ただ、単に車を売るだけでは勝てない時代が来るでしょう。インフラ整備や現地のライフスタイルに寄り添った技術提案ができるかどうかが、10年後の勢力図を分ける鍵になると私は確信しています。
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