名古屋市の中心地、栄(さかえ)地区の再開発を牽引する興和(こうわ・名古屋市)が、その戦略においてスピードを最優先する姿勢を鮮明に打ち出しました。かつてこの地にあった老舗百貨店「丸栄」(まるえい)の跡地を、まずは3階建ての飲食施設として部分開業させると発表したのです。この決断は、当初から目指していた近隣エリアを含めた一体開発(いったいかいはつ)を一時的に棚上げし、暫定的(ざんていてき)な施設で時間を稼ぐためのものと言えるでしょう。
これは、2027年に予定されているリニア中央新幹線の開業を控え、インバウンド(訪日外国人)の増加が期待される中で、一等地である丸栄跡地を不稼働(ふかどう)なままにしておくのは得策ではない、という興和の現実的かつ賢明な判断が働いた結果でしょう。読者の中には、一体開発の遅れに不安を感じる方もいるかもしれません。しかし、私はこの「段階的なアプローチ」こそが、リニア開業という期限がある中で、栄の活気を途切れさせないための最善の策だと考えます。
興和の三輪芳弘(みわよしひろ)社長は、2019年5月24日に開催された決算記者会見で、「(丸栄跡地に)2020年末に**『食』を中心とした商業施設を完成させる」と、具体的なスケジュールを明らかにされました。丸栄は2018年6月に惜しまれつつ閉店し、現在(2019年6月時点)は解体工事が進行中です。SNS上では、老舗百貨店の跡地利用について「とりあえずでも早く栄に活気を」「一体開発は難しいだろうから、まずはこの決断は英断」といった声が多く見られ、スピード感を持った開発を歓迎する反響が目立っています。
また、丸栄の象徴的な存在であった、文化的価値が高い外壁タイルについても、保存を望む強い声に応え、「西側の地下通路の壁に一部残そうと考えている」と三輪社長は述べています。これは、単なる再開発ではなく、地域の歴史と文化への敬意を払った取り組みであり、老舗を愛した地元住民への配慮が見て取れます。丸栄は400年超にわたって地域に愛されてきた老舗百貨店**(しにせひゃっかてん)です。その新しい姿の詳細、特に店舗数などはこの秋に発表される見通しで、地元住民の関心は高まる一方でしょう。
不動産事業を支えるキーパーソンを配置!一体開発への「断固たる意志」
興和が最終的に目指すのは、今回先行開発する丸栄跡地に加えて、北側に隣接する栄町ビルとニューサカエビルを解体し、これらを合わせた広大な敷地での一体的な総合施設を建設することです。この一体開発こそが、栄地区のポテンシャルを最大限に引き出す道であると、興和は考えています。しかし、一部の地権者(ちけんしゃ:土地や建物の権利を持つ人)との調整が難航しているため、当初の目標であった2027年リニア開業に合わせた完成は先送りを余儀なくされました。
三輪社長は、一体開発について「リニア中央新幹線の開通には間に合わない。下手すると50年かかるかもしれないが、栄のためにも一体で開発すべきた」と、強い決意を表明しています。この粘り強い姿勢と長期的な視点は、私たちが街づくりの本質として見習うべき点でしょう。そして、この一体開発への不退転の意志は、トップ人事にも色濃く反映されました。
空席であった丸栄の会長には、長年、丸栄跡地の再開発に携わってきた不動産事業のキーパーソンである、興和出身の山下孝治(やましたこうじ)副社長が就任されました。また、社長には同じく興和の小県昌彦(おがた・まさひこ)氏が就くという新体制が敷かれました。この人事は、丸栄の人事を一新し、グループ全体で一体開発という難題を推し進めていくという、興和の揺るぎない覚悟を外部に示したものと言えるでしょう。
💊総合胃腸薬「キャベジン」の興和がなぜ「不動産王」へ?
一般用医薬品、いわゆる大衆薬(たいしゅうやく)の大手であり、総合胃腸薬「キャベジンコーワ」などで広く知られる興和は、近年、名古屋の「不動産王」としての顔も持っています。この地位を築いた背景には、経営不振が続いていたホテルや百貨店の買収(ばいしゅう)を積極的に進めてきた歴史があります。例えば、老舗の名古屋観光ホテルは、バブル崩壊後に債務超過(さいむちょうか:負債が資産を上回る状態)に陥りましたが、興和は1999年にTOB(ティーオービー:株式公開買い付け)で子会社化し、ホテル事業に参入を果たしています。
その後、2012年には完全子会社化し、2013年にはナゴヤキャッスルも買収するなど、名古屋の一等地における重要な不動産を傘下に収めてきました。さらに、興和は栄地区の再開発と並行して、傘下企業のトップを興和出身者で固める動きを強め、街づくりへの支配力を高めています。これは、「キャベジン」で培った企業力と資金力を、名古屋の未来への投資に振り向けている姿勢の表れでしょう。
丸栄社長だった浜島吉充(はまじまよしあつ)氏は、栄交差点の地下街「サカエチカ」を運営するサカエチカマチの社長に就任されました。この地下街の社長ポストは、これまで歴代、名古屋市役所の出身者が務めてきた経緯があり、興和が地下空間を含む広範囲な街づくりに深く関与していくことを示唆しています。また、丸栄会長に就任される山下氏は、名古屋観光ホテルとナゴヤキャッスルの社長を兼任されるなど、要職を担っています。特にホテルナゴヤキャッスルは、数年後に高級ホテルへの建て替えが検討されており、周辺の街づくりに計り知れない影響を与えるでしょう。令和の時代も、名古屋の街づくりのカギを握るのは、間違いなくこの興和となりそうですね。
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