鳥取県の誇る特産品、鳥取砂丘らっきょう。その栽培地である鳥取市福部町では、長年の懸案事項であった人手不足の解消に向け、画期的な一歩を踏み出しました。国が地域ブランドとして保護する**「地理的表示」(GI)にも登録されているこの地のらっきょう生産において、煩雑な作業を補助する新型機械の試験導入が始まったのです。生産者の方々は「産地振興の大きな助けになる」と、この機械化がもたらす未来に大きな期待を寄せていらっしゃいます。
この新型機械が担うのは、らっきょうの根や葉を切る作業です。この作業に従事する方は「切り子」と呼ばれていますが、近年、その担い手の確保に生産者は大変苦心しているのが現状でした。この根葉切りの機械化は、産地にとってまさに悲願とも言えるものです。この取り組みは、鳥取県や鳥取大学などが連携して進められてきました。現場のニーズに応える技術開発は、地域産業の活性化に不可欠でしょう。
らっきょうの初出荷式は2019年5月20日に鳥取市福部町で行われ、生鮮らっきょうの出荷は6月末まで続く予定です。今回開発された根葉切り機は、生産者団体である福部らっきょう組合長会の井手野治会長が、今シーズンを通じて試験的に導入されています。同時に、鳥取大学でも学生さんを動員した使用実験が進められており、開発に携わった同大農学部の野波和好准教授は「現在見つかっている課題を修正すれば、来年度から完成品として提供できる見込みです」と、順調な開発の進捗を語っています。
出荷されるらっきょうには、根が付いたままの「根付(ねづけ)」と、根や葉を切り取った「洗い(あらい)」の2種類が存在します。特に「洗い」は、消費者が酢漬けなどを作る際の手間が省けることから人気が高く、単価も高い傾向にあります。JA鳥取いなばのデータによると、福部町から出荷される洗い1キログラムあたりの単価は、2013年には532円だったものが、2018年には757円まで上昇しています。ブランド力の向上に伴う単価の上昇は喜ばしいことですが、それだけに「洗い」を出荷するために必要な「切り子」さんの確保は、より重要度を増していると言えるでしょう。
雇用情勢が改善する中、新たな切り子さんの確保はますます困難な課題となっています。井手野会長は「ハローワークをはじめ、さまざまな求人媒体に頼っても、なかなか思うように人材を確保できない状況です」と、現状の厳しさを吐露していらっしゃいます。この作業の報酬は、処理量に応じた歩合制**が採用されています。伝統的な作業手法は、垂直に固定された包丁にらっきょうの実を押し当てて根や葉を切り落とすというものです。 この方法は、実の形状に合わせて包丁に当てる場所を細かく調整する必要があるため、初心者が作業に慣れて、ベテラン並みの収入を得られるようになるまでには、1週間程度を要してしまいます。これが、新規の従事者確保を難しくしている大きな要因の一つなのです。
技術革新の光:新型根葉切り機の導入効果と期待
「初心者でも根切り作業ができる機械を」という生産者側の強い要望を受け、鳥取県と鳥取市は、2018年度予算に開発費としてそれぞれ約150万円を計上しました。これを受けて、前述の野波准教授が兵庫県の農業用機械メーカーと連携し、開発を進めてきたのがこの新型機械です。開発された機械は、実を挟むという単純な作業を行うだけで、自動で2枚の回転するカッターの間にらっきょうを通し、根や葉を切り落とす仕組みです。伝統的な手法のように細かい調整は必要ありませんが、操作に慣れればベテランの方々に匹敵する処理量も期待できるとのことです。
井手野会長は、新型機械で処理したらっきょうについて、「ベテランの切り子さんが作る洗いらっきょうの完璧な美しさには、まだ及ばないかもしれません。しかし、商品として出荷するには十分な水準に達しています」と、その実用性を高く評価されています。さらに、「これだけ作業が軽減されれば、切り子さんの確保も格段にしやすくなると強く期待しています」とも述べられ、この機械が人手不足解消の切り札となる可能性を示唆されています。農業における省力化は、生産者の高齢化や人手不足が深刻化する現代において、日本の食を支える上で欠かせない要素です。今回の開発は、その成功例として全国の農業現場に大きな勇気を与えることでしょう。
「GIブランド」の持続可能性と産地の未来への取り組み
鳥取市福部町のらっきょうは、2016年3月に「鳥取砂丘らっきょう」「ふくべ砂丘らっきょう」として地理的表示(GI)に登録されました。GIとは、その地域ならではの品質や社会的評価などが確立されている特産品を国が保護し、ブランド化を進める制度のことです。このGI登録によるブランド向上も背景となり、福部町のらっきょう販売額(加工も含む)は、2016年に過去最高の10億7,000万円を達成し、2017年も10億3,000万円を超えました。2019年も10億6,000万円の目標が掲げられており、そのブランド力は健在です。
一方で、ブランド化が進む中でも、生産者の減少という深刻な問題が顕在化しています。JA鳥取いなばの資料によると、1986年には225戸で171ヘクタールを栽培していたのに対し、2018年には67戸で115ヘクタールまで減少している状況です。福部町全体では、約3,000人近い切り子さんが作業に関わっていますが、近年は人材の確保が困難なため、十分な量を出荷できない生産者も出ていると聞きます。伝統的な手作業の美しさは貴重ですが、産地の持続性を考えれば、機械化による効率化は避けられない道だと私は考えます。
このような状況を打破するため、JA鳥取いなばは、新型根葉切り機の導入費用の補助を、県などと連携して検討しています。さらに、同JAは今年、約30トンの加工用らっきょうの根葉切り作業をベトナムの業者に委託するという試験的な取り組みも開始しました。この海外委託と国内の機械化を両輪として進めることで、難局を乗り切ろうという強い意思が感じられます。同JA福部支店の上原伸一支店長は、「今後の産地振興を見据えると、作業の機械化は必要不可欠な要素です」と語っていらっしゃいます。「らっきょう王国」としての鳥取の地位は、2016年の全国出荷量で2,836トンと全国1位(農林水産省の地域特産野菜生産状況調査より)であることからも明らかであり、この輝かしいブランドと産地を未来に繋ぐため、機械化への期待は高まるばかりでしょう。
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