石川県和倉温泉にある「加賀屋」といえば、日本一のおもてなしを誇る老舗旅館として、その名は全国に轟いています。2019年06月06日現在、ネット上やSNSでも「一生に一度は泊まりたい」「接客のレベルが次元を超えている」といった感動の声が後を絶ちません。そんな加賀屋を率いるのが、第5代社長の小田與之彦(おだ よしひこ)氏(50)です。今回は、伝統を守りながらも革新を続ける小田社長の「リーダー論」に迫ります。単なる後継ぎとしての物語ではなく、外の世界を知る彼だからこそ語れる経営哲学は必見です。
小田社長は物心ついた頃から、旅館の中で育ちました。周囲が働く姿を見て育った彼は、保育園時代に「将来の夢」を聞かれて「加賀屋の専務」と答え、先生を驚愕させたという逸話を持っています。しかし、彼はそのまま順当に家業を継いだわけではありません。大学卒業後は大手総合商社の丸紅に就職し、さらにアメリカへの留学も経験しているのです。これは、「外の世界を見たい」という強い意志と、これからの時代を見据えた広い視野を養うための選択でした。
米国で学んだ「おもてなし」の科学
特筆すべきは、小田社長が米コーネル大学のホテル経営大学院で学んだ経験です。ここはホテル経営学における世界最高峰と言われています。そこで彼が目の当たりにしたのは、徹底的な「システム化」でした。日本のおもてなしは「勘と経験」に頼りがちですが、アメリカでは「誰にでもできるようにする仕組み」が構築されていたのです。これは非常に合理的な考え方であり、サービス業における革命的な視点と言えるでしょう。
この学びは、現在の加賀屋の経営にも色濃く反映されています。例えば、重要業績評価指標(KPI)の導入などがその一例です。KPIとは、目標を達成するためのプロセスが順調かどうかを数値で計測する指標のことですが、小田社長はこれを活用し、伝統的なおもてなしの心を、全従業員が実践できるスキルへと落とし込んでいます。伝統と最新の経営理論を融合させる手腕は、まさに見事としか言いようがありません。
王貞治氏から受け継ぐ「公平無私」の精神
リーダーとしての小田社長が最も尊敬し、模範としている人物がいます。それは、世界のホームラン王・王貞治氏です。小田社長が小学生の頃からの付き合いだそうですが、彼が感銘を受けたのは王氏の「裏表のない公平な態度」でした。どんなに若手の相手であっても、テレビの前と同じように接する王氏の姿に、真のリーダー像を見出したのです。「言行完全一致」を掲げる小田社長の信念は、こうした偉人との交流から形成されたものでしょう。
また、小田社長は「お客様は神様です」という言葉の真意についても触れています。これは「客は何をしてもいい」という意味ではなく、「お客様はすべてを見抜いている」という戒めなのだと語ります。だからこそ、社員には常に公正で、嘘のない態度を求めているのです。私自身、メディアの編集者として多くの経営者を見てきましたが、ここまで徹底して「透明性」と「人間力」を重視するリーダーは稀有な存在だと感じます。
編集後記:進化する老舗の未来
小田社長は現在、中学生の息子さんに対しても「家を継ぐことだけを考えず、可能性を広く持て」と伝えているそうです。時代の変化が激しい現代において、固定観念に縛られない柔軟な思考こそが、100年続く企業を作る鍵なのかもしれません。趣味のマラソンで鍛えた健脚のように、小田社長はこれからも加賀屋という巨大な組織を、着実に、そして力強く前へと進めていくことでしょう。
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