ベトナムという活気あふれる地で、日本の生産技術をいかに定着させるかは、多くの海外進出企業にとって最大の関心事ではないでしょうか。2018年5月に現地でコミュニケーションや組織構築に関する書籍を出版して以来、私は大学や企業での講演を通じて、数多くの現場のリアルな声に触れてきました。そこから見えてきたのは、日本式を押し付けるのではなく、現地の文化に合わせた「心の対話」の重要性です。
多くの日系企業が頭を抱えている課題は、やはり従業員の離職率の高さにあると言えます。せっかく技術を教えてもすぐに辞めてしまうという悩みは絶えませんが、実はこれこそがコミュニケーションの工夫次第で劇的に改善できるポイントなのです。SNS上でも「ベトナムの方々は向学心が強く、メリットが明確であれば驚くほどの力を発揮する」といった、環境づくり次第で組織が化ける可能性を示唆する声が目立っています。
かつて私が現地の指導現場で経験した、ある象徴的なエピソードをご紹介しましょう。研修中、最も周囲に影響を与えていた賑やかなスタッフに対し、単に「静かにしなさい」と注意するのではなく、表現を変えてアプローチを試みました。そこで伝えたのは、「部下がルールを遵守するための技術を学べば、ミスを減らすことが可能ですよ」という、相手のキャリアや実務に直結する具体的なメリットだったのです。
このアプローチは、相手の自尊心を尊重しながら、学ぶことの「意味」を明確にする手法です。専門的な視点から言えば、これは「EAP(従業員支援プログラム)」の考え方に通じるものでしょう。メンタルヘルスや行動科学の知見を活かし、個人のモチベーションを組織の目的と合致させるこの取り組みは、異文化環境でこそ真価を発揮します。驚くべきことに、そのスタッフはそれ以降、別人のように誠実な態度で指示を完遂してくれるようになりました。
私は、この変化こそがベトナムでのビジネスを成功させる「ツボ」であると確信しています。彼らは決して従順でないわけではなく、自分の成長や業務の効率化にどう繋がるのかを論理的に理解したいという欲求が強いのです。ただ「やれ」と命じるのではなく、その行動がもたらす価値を丁寧に翻訳して伝える姿勢こそ、編集者である私の視点からも、これからのグローバルリーダーに不可欠な資質だと強く感じます。
2019年07月29日現在、ベトナムの経済成長は凄まじい勢いにあり、現地の労働市場も非常に流動的です。しかし、相手に敬意を払い、要望の背景にある「意味」を正しく共有できれば、強固な信頼関係を築くことは決して不可能ではありません。実行力を高める魔法は、小手先のテクニックではなく、言葉の裏側にある誠実なコミュニケーションの中に隠されているのではないでしょうか。
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