英国のメイ首相は、ブレグジットという歴史的な大事業を完遂できぬまま、2019年6月7日をもって与党・保守党の党首を退任することとなりました。新党首の選出を経て、その地位を譲り、およそ3年間の政権に幕を下ろします。2016年7月の就任以来、欧州連合(EU)からの離脱を目指し、国内外で粘り強い調整を続けてきたものの、ついに離脱の道筋をつけることができませんでした。この無念の退場劇の背景には、専門家から指摘されるメイ氏の**「秘密主義」的な政治手法や、それに伴う「根回し」**不足が深く関わっていると考えられます。彼女は、5月24日の辞任会見で「国民に選択の機会を与えたのであれば結果を実行に移す義務がある」と述べ、離脱実現という自身の使命を果たせなかったことに対し、「今後も残念に思うだろう」と悔しさをにじませていらっしゃいます。
メイ氏を追い詰めるきっかけとなったのは、2017年1月に表明された具体的な離脱方針です。国民投票から約半年後に、彼女は**「単一市場・関税同盟からの撤退を目指す」と、いわゆる「ハード・ブレグジット」にも繋がる明確な方向性を示しました。単一市場とは、EU域内でのモノ、人、サービス、資本の移動の自由を保障する経済圏のことで、関税同盟は域外からの輸入品に共通の関税を課す仕組みです。当時の離脱支持者の間でも、EUと完全に決別すべきか、経済関係を維持すべきかで意見が分かれていた状況でしたが、メイ氏の方針は、完全な決別を望む保守党内の「強硬離脱派」**を勢いづかせる結果となりました。結果として、後のアイルランド国境問題のような、複雑な妥協案が必要になった際に、党内の説得が極めて困難になるという負の連鎖を生んでしまったのです。
この初期の対応について、ロンドン大学キングスカレッジのジョナサン・ポルテス教授は「メイ氏は交渉の初期段階で失敗した」と厳しく指摘しています。教授は、政府への助言を目的に、政治家や有識者の協議の場を設ける手立てがあったと語っています。もし、仮にこの協議が紛糾したとしても、離脱問題の難しさが国民の間で認識され、妥協を引き出すことができた可能性があったという見解を示されているのです。実際、メイ氏が2018年7月に公表した離脱後のEUとの関係を示す**「白書」は、「移民の流入制限」と「自由貿易の維持」という、イギリスにとって都合の良いと欧州側が受け取る内容であったため、EU側からの「英国に都合のいい枠組みだ」**という批判を招き、ヨーロッパ側の英国に対する不信感を強める原因となりました。
国内においても、強硬離脱派からは、首相案では**「EUに縛られ続ける」との批判が広がり、最終的に英議会では首相提案が3度も否決されるという異常事態を招きます。追い込まれたメイ氏は、「国民投票の再実施」**を検討する姿勢も見せましたが、これは強硬離脱派からの激しい反発を呼び、党内での求心力を完全に失う決定打となりました。元英BBC記者のロバート・オーチャード氏が「誰が首相をやっても難しい局面だった」と語るように、ブレグジット交渉が極めて困難だったことは間違いありませんが、メイ氏の政治家としての性格が、その困難を乗り越える上での致命的な障壁となったとの指摘が、専門家たちの間では共通しています。
オーチャード氏によると、メイ氏は**「内気で簡単に他人を信用しない」**性格と評されており、1997年の初当選以来、実務肌の政治家として地道にキャリアを積み上げながらも、政治的な派閥活動や人脈づくりを重視してこなかったという側面があります。この姿勢は、離脱協議においても顕著で、側近の官僚らと交渉案を練り上げる一方で、重要閣僚にさえ詳細を伝えないという秘密主義的なやり方をとりました。この結果、突如示される交渉案への反発から、ジョンソン前外相やラーブ前EU離脱担当相といった重要人物が相次いで政権を去り、およそ3年の在任期間中に、閣僚や副大臣級が30人以上も辞任するという異例の事態を引き起こしています。
首相の退任が避けられない状況となったメイ氏に対し、SNS上では「ブレグジットの泥沼から抜け出せない英国政治の犠牲者だ」「彼女の誠実さは評価するが、政治家としての駆け引きが足りなかった」といった同情的な意見と、「秘密主義が多くの誤解と不信を生んだ」「もっと開かれた交渉体制をとるべきだった」といった批判的な意見が入り乱れていました。特に、閣僚の大量離脱に関するニュースは、彼女の「秘密主義」を裏付けるものとして大きな反響を呼んでいました。私の意見としては、彼女の使命感やタフな交渉力は認めますが、やはり**「民主主義における合意形成」のプロセスを軽視したことが、最大の敗因でしょう。「国民の選択」という重いバトンを託された以上、もっと幅広い層の意見を取り込み、「コンセンサス」**(合意)を得るための努力を惜しむべきではなかったと考えます。
メイ氏が首相の座を去った後、新しい首相は7月下旬にも選出される見通しですが、英国国内の政治的な**「分断」は深まり、さらには英国とヨーロッパ諸国との「亀裂」**も修復が難しいほどに広がっています。次の離脱期限である10月末が目前に迫る中、新たな指導者には、極めて厳しい課題が待ち受けていることは想像に難くありません。メイ氏の退任は、ブレグジット問題の難しさを改めて浮き彫りにした出来事と言えるでしょう。
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