世界中でコーヒーの消費が拡大し、私たちの生活に欠かせない一杯となっている一方で、その裏側では生産農家がかつてない苦境に立たされています。2019年07月31日現在、コーヒー豆の国際相場は長期的な低迷から抜け出せず、産地では農園を放棄する動きが加速しているのです。特に南米のコロンビアなどは、輸出価格を底上げするための国際的な枠組みを必死に求めていますが、消費国側の反応は驚くほど冷ややかなものに留まっています。
SNS上でもこの問題は注目を集めており、「毎日飲んでいるコーヒーの裏側に、これほど過酷な格差があるとは知らなかった」といった驚きの声や、「農家が報われないなら、将来美味しい豆が飲めなくなるのではないか」という不安が広がっています。こうした消費者の懸念をよそに、国際指標となるアラビカ種のニューヨーク先物価格は、2019年05月に1ポンドあたり86セントという、約14年ぶりの安値を記録しました。現在は100セント前後まで戻したものの、依然として厳しい状況に変わりはありません。
2019年07月上旬、ブラジルで開催された「世界コーヒー生産者フォーラム」では、この危機を打破するための大胆な提案が飛び出しました。コロンビアコーヒー生産者連合会(FNC)のロベルト・ベレスCEOは、輸出の基準価格を1ポンド2ドルに設定すべきだと主張したのです。これは現在の相場の約2倍に相当する数字であり、背景には「このままでは農家の生活が成り立たない」という悲痛な叫びがあります。経済学者のジェフリー・サックス氏も、国際的な救済基金の設立を提唱しました。
生産コストが招く明暗、ブラジルの機械化がもたらす圧倒的競争力
なぜここまで生産国の足並みが揃わないのでしょうか。その最大の理由は、世界最大の生産国であるブラジルと、それ以外の国々の間に存在する「生産コストの格差」にあります。ブラジルは広大な農地に機械を導入し、効率的な大規模生産を確立しました。これに対し、コロンビアや中米諸国は急峻な斜面での手摘み収穫が主流であり、人件費を含めたコストが割高にならざるを得ません。ブラジルにとっては、現在の安値でも利益が出る「一人勝ち」の状態なのです。
ここで言う「生産コスト割れ」とは、コーヒー豆を栽培・収穫して出荷するまでにかかる費用が、市場での販売価格を上回ってしまう赤字状態を指します。コロンビアでは生活のためにコカインの原料となるコカの葉へ転作する農家が現れ、グアテマラやホンジュラスでは困窮した農民が米国を目指す移民キャラバンに加わる事態となっています。一方で、世界第2位の生産国であるベトナムも低コスト生産を実現しており、危機感の温度差は広がるばかりです。
かつてカカオ豆の世界でも、コートジボワールとガーナが協力して最低販売価格を設定しようと試みましたが、合意形成は難航しています。このように生産者が結託して価格を支配しようとする「カルテル」的な動きは、自由市場においては非常に困難だと言えるでしょう。専門家も、コスト構造が異なる国々がコーヒーで共同歩調を取る現実味は乏しいと分析しています。ブラジルにとって、他国を救済するために自らの利点を手放すメリットはほとんど見当たらないからです。
私は、この問題は単なる経済原理だけでなく、私たちが享受している「安さ」の代償を誰が払っているのかという倫理的な問いを突きつけていると感じます。特定の巨大生産国だけが生き残り、多様な味わいを持つ小規模産地が消えていくことは、コーヒー文化全体の衰退を意味するのではないでしょうか。消費者が適正な価格(フェアトレード)を意識し、産地の持続可能性を支える姿勢を持つことが、今まさに求められているのではないかと強く実感しています。
コメント