自動車、工場、そしてビル。あらゆるものがインターネットにつながる「IoT(Internet of Things:モノのインターネット)」時代を迎え、これらの重要インフラをサイバー攻撃から守る取り組みが急務となっています。大手電機メーカーのパナソニックは、この課題に対し、人工知能(AI)を活用した革新的なサイバー防衛システムの開発に乗り出しているのです。これは単なる個別の対策に留まらず、車、工場、ビルといった多様な対象を横断的に守るクラウドベースのプラットフォームを構築する、壮大な計画だといえるでしょう。
パナソニックは、通信データをAIが分析することで攻撃を素早く検知し、即座に対策を講じるシステムを目指しています。特に注目されるのは、AIが通常のパケットの種類や順番といった通信のパターンを学習することです。これにより、第三者が不正なパケットを送り制御しようと試みた場合、AIがそれを異常として即座に見抜きます。管理担当者がその異常をサイバー攻撃と判断し、迅速な対応が可能となる仕組みです。この技術の有用性を検証するため、同社は森ビルと連携し、実証実験に着手しています。ビルの空調や照明が不正に操作されるようなサイバー攻撃の可能性に備えているのです。
AIを活用したサイバー防衛技術は、従来の防御システムが抱えていた課題を解決する切り札となるでしょう。従来のシステムは、既知の攻撃パターンに対応するための詳細なルール作りが必要で、構築に多大な手間がかかりました。しかし、AIは機械学習により、ルールが設定されていない新種の攻撃にも自律的に対処できる能力を持っています。パナソニックはすでに、2017年(平成29年)以降、自動車や工場向けのAIサイバー防衛システムを開発し、その成果を学会などで発表している実績があります。これまでの知見を活かし、今回の統一的なプラットフォーム構築へと繋げようとしているのです。
この統一プラットフォームの大きな狙いは、多岐にわたる対象(車、工場、ビル)から広く情報を集積し、共通する攻撃の手口を見抜く精度を高めることです。多くのデバイスが繋がり、スマート化が進む現代においては、攻撃側も共通の手法を用いることが多いため、情報を集約することで、より強固な防御壁を築くことができるでしょう。例えば、自動車では高度な運転支援システムの搭載が増加しており、工場でも設備が自律的に稼働するスマートファクトリー化が進展しています。さらには、大容量・高速通信を可能にする次世代通信規格**「5G」**の本格的な普及も、このサイバー防衛システムの必要性を一層高めていくと見ています。
世界市場の動向とパナソニックの追撃体制
AIを用いるサイバー防衛の分野は、すでに世界的に激しい競争が繰り広げられており、特にイスラエル企業が先行しています。例えば、自動車部品大手のドイツ・コンチネンタルは2017年(平成29年)にイスラエルのアルグス・サイバー・セキュリティーを、またアメリカの自動車部品大手ハーマンインターナショナルは2016年(平成28年)に同じくイスラエルのタワーセックを買収するなど、成長分野における**M&A(合併・買収)が非常に活発な状況です。日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査によれば、イスラエルでは退役軍人による起業が増加し、年間80社以上ものサイバー防衛のスタートアップが誕生しているとのこと。この事実からも、この分野が世界的にどれだけ注目されているかが分かります。
パナソニックは、これらの先行企業を追撃するため、ソフトウエア技術者の教育を強化するなど、急ピッチで体制を整えています。特に、家電の組み込みソフトウエア技術者などを、サイバー防衛の分野で活躍できるよう育成しているとのことです。さらに、京都大学や名古屋大学といった国内のトップレベルの研究機関とも共同研究を進めており、サイバー防衛を含むAI技術者を、今後2年~3年で現在の約2倍となる1,000人規模に増やす計画を立てています。この計画の実行力こそが、競争が激化する世界市場でパナソニックが優位性を確立するための鍵を握ると私は考えています。
同社は、自社の国内外の工場でシステムの実証を進めながら、このクラウドプラットフォームを2020年代前半には本格的に商用化することを目指しています。このAIによるサイバー防衛の市場は、まさにその20年代前半に立ち上がると見込まれており、パナソニックのこの挑戦は、来るべき「コネクテッド・ワールド」**において、日本の産業インフラを守る重要な役割を担うこととなるでしょう。この革新的な取り組みが、社会に安心と安全をもたらす未来に期待が高まります。
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