インドの後発薬大手のルピンは、近年の業績低迷からの脱却を目指し、高額なバイオ医薬品の後続品であるバイオシミラー市場への本格参入を加速させています。バイオ医薬品とは、生物由来の物質や技術を用いて製造される、がん治療薬や自己免疫疾患治療薬など、複雑な構造を持つ画期的な医薬品のことです。これに対し、従来の薬は化学合成によって作られており、構造も比較的シンプルで低分子医薬品と呼ばれます。ルピンのバイオ薬部門を統括するサイラス・カルカリア氏は、日本経済新聞の取材に対し、2019年中に日本やヨーロッパなどでバイオシミラーの販売を開始する計画を明らかにしました。これは、特許切れを間近に控えた大型バイオ医薬品が相次ぐという絶好のビジネスチャンスを捉えようとする、同社の生き残りをかけた重要な戦略と言えるでしょう。
ルピンがこの分野に注力する背景には、従来の低分子医薬品の創薬では成長に限界が見えていることがあります。カルカリア氏は、世界で数百万ドル規模の売上高を誇る「ヒット薬」の約7割がバイオ医薬品であることを指摘し、「戦略の見直しは避けられなかった」と胸中を語っています。バイオシミラーは、複製対象となる先発のバイオ医薬品と成分がほぼ同等で、治験でも同様の結果が得られているため、先発薬よりも安価に提供できるというメリットがあります。インドの専門家チームの報告によると、主要なバイオ医薬品の多くは2020年までに特許が失効する見通しです。この巨大な市場を見据え、アメリカのコンサルティング大手フロスト&サリバンは、バイオシミラーの製造・販売を手掛けるインドのバイオ製薬会社が既に100社以上に上ると見ています。
現在、世界のバイオシミラー市場は、スイスのノバルティス、アメリカのアムジェンやファイザー、韓国のセルトリオンといった巨大企業が支配しており、ルピンの参入によって競争はさらに激しくなる見込みです。しかし、医療専門家からは、バイオシミラーの普及がバイオ医薬品のコスト削減に繋がり、結果として多くの患者さんが命を救う薬を利用しやすくなるという期待の声が上がっています。アメリカのコンサルティング大手マッキンゼー・アンド・カンパニーの予測では、2020年までに世界のバイオシミラーの売上高は現在の3倍となる約150億ドル(日本円で約1兆6500億円)に達すると見込まれています。バイオシミラーは、医療費全体の抑制に貢献する大きな可能性を秘めており、社会的意義も非常に大きいと言えるでしょう。
🇺🇸米国事業の逆風を跳ね返すためのバイオシミラー戦略
ルピンは、後発薬(ジェネリック医薬品)とその有効成分の製造・販売で知られており、心臓血管病、糖尿病、ぜんそく、結核など幅広い医療分野で存在感を示しています。特に、アメリカでの売上高が全体の約35パーセントを占め、インド国内がこれに次ぐ主要な市場です。しかし、この重要なアメリカ市場で、ルピンは厳しい状況に直面しています。米食品医薬品局(FDA)が医薬品の承認を迅速化した結果、価格競争が激化し、同社の主力事業は低迷しています。さらに、2018年12月には、FDAがインドのマディヤプラデシュ州にあるルピンのマンディディープ工場に対し、製造過程における疑義を指摘しました。この工場は規制や行政処分の対象となっており、場合によってはFDAがこの工場で製造された医薬品の申請を認めない可能性も指摘されており、ルピンにとっては大きな痛手となっています。
このような状況の中で、2019年5月中旬に発表された2019年3月期の決算では、特殊要因を除く最終利益が60億ルピー(約94億円)に増加したものの、これは2年前の水準のわずか4分の1に留まっています。ですから、日本やヨーロッパをはじめとする海外市場でのバイオシミラーの売上高は、既存事業の落ち込みを補うための極めて重要な収益源となることでしょう。カルカリア氏は、今後5年間でバイオシミラー市場で10パーセント以上のシェアを獲得し、業績に大きく貢献させたいという強い意欲を示しています。同社のバイオ医薬品部門は、2019年3月末までにインド国内で3件、海外で3件の特許を申請しており、さらにアメリカで1件、南アフリカで3件の特許を取得するなど、着実に基盤を固めている状況です。
私個人の意見としては、ルピンのバイオシミラーへの戦略転換は、時代を見据えた賢明な判断だと評価できます。従来の低分子医薬品市場が飽和状態にある中で、成長著しいバイオ医薬品の後追い、特に価格競争力が武器となるバイオシミラー市場への参入は、同社の将来を左右する**「攻めの経営」と言えるでしょう。特に、ルピンが大半の海外市場での販売を後発薬世界大手のマイランに委託する一方、日本事業については日医工と提携するという戦略は、各地域の規制や市場特性に合わせた柔軟なアプローチであり、成功の可能性を高めるに違いありません。
インドHDFC証券のアナリストであるアメイ・チャルク氏は、多くのインド企業がバイオシミラー分野で先行しているものの、各国規制当局がこの分野の規制を整備している途上であるため、ルピンは既存製品によってまずアメリカでの地位を確固たるものにする方針を取ったと分析しています。また、同氏は「ルピンは競争相手が少ないニッチ薬**の開発も進めている」と指摘しており、単なるバイオシミラーだけでなく、独自の強みを持つ医薬品の開発にも注力することで、さらなる成長を目指すルピンの戦略に期待が高まります。ルピンがバイオシミラーをテコに、世界的な製薬企業としての地位を確立できるか、今後の動向に注目が集まることでしょう。
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