日本のビール界に衝撃が走っています。アサヒグループホールディングスが、ビール世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブからオーストラリア事業を買収すると発表しました。これにより、日本・欧州・豪州の3拠点を軸に世界市場へ打って出る盤石な体制が整うことになります。SNS上でも「ついにアサヒが世界へ!」「豪州のパブにスーパードライが並ぶのか」といった期待の声が続々と寄せられています。
アサヒはこの4年間で、海外事業の拡大になんと2兆4000億円もの巨額資金を投じてきました。2019年08月02日現在の状況を振り返ると、国内市場の縮小という厳しい現実に直面する中、同社が生き残りをかけて海外へ活路を見出したことが鮮明に伝わってきます。まさに日本の「喉ごし」を世界標準にするための、社運を賭けた大勝負と言えるでしょう。
「3極体制」で世界の大手と真っ向勝負へ
2019年08月01日に開催された決算会見で、小路明善社長兼CEOは、今回の豪州事業買収の効果について強い自信をのぞかせました。買収対象である豪州ビール最大手の「カールトン&ユナイテッドブリュワリーズ(CUB)」と既存事業を合わせると、EBITDA(イービットディーエー)は1000億円規模に達する見込みです。これは欧州事業に匹敵する利益規模となります。
ここで登場した「EBITDA」という用語ですが、これは「利払い・税引き・償却前利益」を指します。税金や金利、設備の減価償却費などを差し引く前の利益のことで、国によって異なる税制や会計基準の影響を受けにくいため、海外企業との収益力を比較する際に非常に便利な指標です。この数字が積み上がることで、アサヒは世界のビール巨人たちと肩を並べる準備が整ったと分析できるはずです。
アサヒは2016年から、小路社長の指揮下でグローバル化を加速させてきました。1兆2000億円を投じて欧州の高級ブランド「ペローニ」や「ピルスナーウルケル」を手中に収め、現在は事業利益の約4割を海外で稼ぎ出しています。スーパードライを海外で年率10%成長させるという野心的な計画も、今回の販路拡大によって現実味を帯びてきたと言えるでしょう。
忍び寄る「スモールマス」の波と国内の熾烈な争い
しかし、世界市場の景色は刻一刻と変化しています。かつては巨大ブランドによる大量生産・大量販売が勝利の法則でしたが、近年はこだわり抜いた製法で勝負する「クラフトビール」が猛威を振るっています。ネット通販の普及により、大きな工場を持たなくても特定のファンに刺さる商品を届ける「スモールマス」という新しい市場形態が定着しつつあるのです。
クラフトビールの先進国である米国では、2018年には金額シェアで2割を占めるまでになり、既存のメガブランドは苦戦を強いられています。世界最大手のインベブですら、買収攻勢で膨らんだ負債とシェア低下に悩まされており、アサヒも同様のリスクと背中合わせです。高級路線を維持しながら、いかに多様化する消費者の好みを捉え続けるかが、今後の大きな分かれ道になるでしょう。
一方、足元の日本国内でも火花散るシェア争いが続いています。2019年01月から06月のデータでは、キリンビールの「本麒麟」が大ヒットし、首位アサヒとの差はわずか1.5ポイントにまで縮まりました。国内の守りを固めつつ、世界で「スーパードライ」の価値をどう高めていくのか。アサヒの真の実力が、今まさに試されようとしています。
私個人の見解としては、アサヒのこの攻めの姿勢は、内需に頼り切れない日本企業のモデルケースになると感じています。単なる規模の拡大ではなく、日本の醸造技術という「質」の武器をどこまで世界に浸透させられるか、その挑戦を応援せずにはいられません。日本発のブランドが世界のバーで「定番」と呼ばれる日が来ることを期待しています。
コメント