近年、あらゆるモノやコトがデジタル化され、生活は飛躍的に便利になりました。しかし、その一方で、画一化が進み、物事本来の奥深さや面白みが失われ、どこか無味乾燥な側面も生まれているのではないでしょうか。かつては、効率を極めるチェーンストアシステムの構築が小売業界の必須条件でしたが、その結果、売れ筋商品しかないお店ばかりになり、消費者の「発見」や「ドキドキ」「ワクワク」といった感情が生まれにくい状況になってしまったと言えるでしょう。行き過ぎたデジタル化への反動として、今、古いもの、手作りのもの、そして人との繋がりが持つ「温かさ」や「ドラマ性」を求めるアナログ文化への回帰、いわゆる揺り戻しが世界的に起きていると考えられます。
私は先月、アメリカのロサンゼルス、サンフランシスコ、そしてポートランドの3都市を訪れました。そこで目の当たりにしたのは、単に「モノを所有すること」に依存するのではなく、自身の趣味や独自のスタイル、雰囲気を心ゆくまで楽しむ、モノに依存しない豊かさを追求する生活者たちの姿でした。彼らは、常に新品を求めたり、使い捨てたりするのではなく、リサイクルやリユースといった持続可能な方法を取り入れながら、暮らしの「ゆとり」や「味わい」を大切にする、豊かなライフスタイルを実践しているようです。
ロサンゼルスから車でわずか30分ほどの場所にあるフィゲロアストリートに佇む「Highland Park Bowl」は、1927年に建造されたロサンゼルス最古のボウリング場として知られています。この歴史的な場所は、2014年に、古き良き趣を丁寧に残しつつ、レトロモダンなアート空間へと見事に生まれ変わりました。まるで禁酒法時代に秘密の場所でお酒を飲んでいた名残を再現したかのような、隠し扉の奥にある隠れ酒場まで備えられています。朽ち果てそうな外観、レトロな看板、そしてピンをモチーフにした照明など、施設全体からアナログの持つ豊かさが溢れ出ているようです。
このボウリング場では、1レーンあたり1時間40ドルから50ドル(当時の価格)で貸し出すシステムを採用しており、仲間とのプライベートな貸し切りも可能になっています。石窯で焼いたピザと共にお酒を酌み交わしながら過ごす、まさに大人の隠れ家のような空間は、連日行列の絶えない名所となっているとのことです。これは、ただボウリングをする場所ではなく、時間を共有し、雰囲気全体を楽しむという、体験型の価値を提供しているからこそ、多くの人々を魅了しているのではないでしょうか。
🕰️シニア世代の強い「こだわり」を満たすクラシックカー専門店
また、ポートランドの中心部から車で約20分のストリートにある「Matthew Memory Lane Motors」は、1978年に創業したクラシックカーの専門店です。店内には、1930年代から1960年代にかけての名車が数多く並べられ、さながら映画『アメリカン・グラフィティ』の世界に迷い込んだような錯覚を覚えます。主な客層は、経済的にゆとりのあるシニア世代であり、彼らが10代の頃に憧れた車や、親から譲り受けた青春の思い出が詰まった車を求めているのです。「Memory Lane」という店名には、「懐かしい時代を呼び戻す」という意味合いが込められており、まさに顧客の心の琴線に触れるコンセプトと言えるでしょう。
クラシックカーの維持には、部品調達が困難ではないかと懸念されますが、店のスタッフは「40年間のビジネスを通して、他店と部品を融通し合う強固な関係性がある。また、オンラインで部品を取引する専門市場も存在するため、製造販売中止や品切れによって購入できないという事態は起こらない」と、自信を持って説明してくださいました。実際、ここでは、ある期間乗ると別のクラシックカーに乗り換えるという、熱心なヘビーユーザーが多く見られます。これは、単に車を売るだけでなく、あらゆるタイプの修理知識と経験に長けたメカニックの存在、すなわち「人」への信頼こそが、このビジネスにおける絶対的な価値になっていることを示していると考えられます。
このように、自分の「こだわり」に対して強い欲求を持つ消費者は、団塊の世代がシニア層へと拡大していくにつれて、ますます増えていくでしょう。彼らは、デジタル技術の利便性は活用しつつも、実際にモノに触れ、感じることができるリアルな体験型の両方を求めているのです。文化的な多様性を受け入れ、独自のクリエイティブな価値観に基づいて行動するこうした生活者こそが、これからの消費トレンドを牽引していくに違いありません。このアメリカの事例は、効率性一辺倒から脱却し、個性と物語性を重んじるビジネスモデルへの転換の重要性を私たちに教えてくれていると言えるでしょう。
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