純国産のジェット旅客機として注目を集める「MRJ」(三菱リージョナルジェット)の開発を手掛ける三菱航空機(愛知県豊山町)が、その事業展開を大きく転換し、北米市場へ軸足を移す動きを見せています。この戦略変更は、現在開発中の90席クラスのモデルに加えて、新たに計画されている70席クラスの派生機種において、海外部品の調達拡大や北米での機体組み立てが検討されているためです。さらに、親会社である三菱重工業が、カナダの航空機メーカー、ボンバルディアから小型機事業の買収交渉に入ったことも、この北米シフトを裏付ける決定的な動きと言えるでしょう。この一連の流れは、これまでMRJの開発を支えてきた中部地域のサプライヤーにとって、受注環境の大きな変化と、新たな競争への直面を意味しています。
この劇的な変化に対し、中部地域の企業はすでに動き始めています。例えば、MRJの機体組み立てなどを請け負う東明工業(愛知県知多市)の担当者は、「国内外の航空機メーカーからの受注獲得に向け、現地で生産体制を整えることも検討する」と述べています。同社は、2017年(平成29年)にカナダへ現地法人を設立しており、この新たな足場を活かすことで、たとえ70席クラスの生産が北米で行われることになっても、新たな商機を見出せると見込んでいるようです。この**「国内から海外へ」**という視点の転換こそ、今後の航空機産業で生き残るための鍵となるに違いありません。
三菱航空機が北米戦略を加速する背景と専門用語の解説
三菱航空機が新機種として70席モデルの投入を検討している背景には、最大市場である米国における特殊な事情があります。米国では、航空会社とパイロットの間で結ばれている労使協定によって、航空機の重量や座席数に厳しい制限が設けられているのです。この制限をクリアできなければ、航空会社は機体を運航しづらくなります。開発中の90席モデルはこの**「スコープ・クローズ(Scope Clause)」と呼ばれる制限を満たせないため、より小型で制限に適合しやすい70席モデルを投入することで、事業を早期に軌道に乗せたい考えがあるのでしょう。当初、90席モデルの国産比率は約3割でしたが、新機種では国産にこだわらず海外部品の調達を拡大していく方針で、これはコスト競争力と米国市場への適応力を高めるための現実的な選択**だと私は考えます。
この戦略のもう一つの柱が、三菱重工業によるカナダのボンバルディアからの小型ジェット旅客機「CRJ」事業の買収交渉です。この買収を通じて、MRJに必要なサービス部門の人材や、米国などの整備拠点といった重要なインフラを譲り受ける意向だと報じられています。CRJ(カナダ・リージョナル・ジェット)は、リージョナルジェットと呼ばれる座席数が100席以下の小型ジェット機市場で実績のある機体です。この買収が実現すれば、MRJは既存の整備ネットワークや人材基盤を一気に手に入れることができ、市場投入後のサポート体制を迅速に確立できるという、非常に大きなメリットを享受できるでしょう。
中部サプライヤーが直面する試練と競争の激化
MRJの開発には、東明工業の他にも、翼部品の加工を手掛ける旭精機工業や、機体組み立てを担うテックササキなど、幅広い中部地域のサプライヤーが参加しています。これらの企業は、MRJの国内生産を前提として、人材育成や新規設備の導入などを進めてきました。しかし、MRJの生産が北米へシフトする可能性が出てきたことで、今後は海外のライバル勢との競争に真正面から向き合うことになります。愛知県のあるサプライヤー幹部が「これまでは国内展開を中心に考えてきたが、今後は人員の海外派遣や海外拠点の設置なども検討しなければならない」と語っているように、企業の生き残りにはグローバルな視点と現地での生産体制構築が不可欠となるでしょう。
中部地域は、航空機産業の集積地として知られています。経済産業省のデータによれば、2017年(平成29年)の航空機・部品の生産額は1兆4,742億円に上り、そのうち中部・北陸5県(愛知、岐阜、三重、石川、富山)のシェアは5割を超えるという圧倒的な存在感を示しています。この地域経済の活力を維持するためにも、MRJ関連の受注動向やサプライヤーの競争力強化は、極めて重要な課題なのです。三重県松阪市には、三菱重工の松阪工場に集積する中堅・中小10社による「航空機部品生産協同組合」(松阪クラスター)があり、部品の加工から表面処理、塗装までを国内で初めて一貫生産する体制を整え、高い生産性を武器に米国のボーイング社へも部品を供給しています。彼らのように、高い優位性を保ち、世界に通用する競争力を持つことができるかが、今後の大きな分かれ目になるでしょう。
この報道を受けて、SNSでは**「国産にこだわらず世界で勝負する姿勢は理解できる」「中部地域の企業は大変だろうが、これを機にグローバル化を進めてほしい」といった、エールと懸念が入り混じった反響が見られました。国産ジェットという夢を追いかけつつも、現実的な市場の壁に直面し、大胆な戦略転換を図る三菱航空機と三菱重工業。この決断は、長年日本の航空機産業を支えてきた中部地域のサプライヤーに大きな試練を与えますが、同時に世界市場へ挑戦する新たなチャンス**をもたらすものだと、私は前向きに捉えています。彼らがこの波を乗りこなし、グローバルサプライヤーとして更なる飛躍を遂げることを期待せずにはいられません。

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