海外でも高い評価を得る劇団態変が、2019年6月21日から23日にかけて、アイホール(兵庫県伊丹市)で新作公演「箱庭弁当―さ迷える愛 破」を上演いたします。身体障害を持つ役者だけが実現できる独特の表現を極めてきた劇団が今回、テーマに選んだのは**「愛」という普遍的ながらも深遠な概念です。愛の本質を鋭く追求しながらも、劇団態変としては珍しいファンタジーの要素を豊かに取り入れた作品となっています。
舞台では、麻痺や手足の欠損といった障害を持つ役者たちが、体の輪郭をくっきりと見せるレオタード姿で、時には戯れるように、時にはうごめくように舞い踊ります。一般的に「美しい」とされるバレエのようなダンスとは一線を画すものの、その「身体表現」は観客の胸に強く迫るものがあり、命の躍動そのものに触れたかのような感覚を覚えることでしょう。この表現は「障害者なのにすごい」といった健常者視点の陳腐な言葉を観客から奪い去り、障害そのものに対する考え方までも変えてしまう力を持っています。
🎬 劇団態変が追求する「異形の美」と「愛」への問い
劇団主宰であり、ほぼすべての作品の作・演出を手掛ける金満里(きむまんり)氏は、「異形であることを見世物にはしない。その上で、シンプルに楽しんでもらえる身体表現を追求してきた」と語っています。旗揚げから36年という長きにわたり、世界的な舞踏家であった故・大野一雄氏との共作や交流などを経て、金氏と劇団員たちは唯一無二の表現を磨き続けてきました。初めてその動きを目にする観客は戸惑いを覚えるかもしれませんが、それはまさしく生命そのものと向き合う瞬間だと言えるでしょう。
今回の公演は、愛をテーマとする三部作「さ迷える愛」シリーズの二作目にあたります。愛とは何かを突き詰めるその探求の出発点は、「人間にとって愛は邪魔なものではないのか」という金氏自身の問いです。金氏は、「人間の本質はエゴであり、愛はオブラートのようにそれを隠してしまう」と厳しく指摘します。障害者として、在日朝鮮人二世として、そして女性として、厳しい環境を生き抜く中で社会や人間と徹底的に向き合ってきた金氏の言葉には、独特の重みが宿っているのです。
しかし、愛に対して懐疑的な目を向ける一方で、金氏は、障害を持つ自身を絶対的に肯定できたのは「母の愛があったから」と振り返ってもいます。現代において、愛は深く意味を考えられることなく、無批判に肯定されがちです。特に未来を信じられない現代人は、安易に他者との関係の中に愛を求め、その愛に個人の存在の拠り所を置く傾向があります。金氏は、世間に「人への過剰な感謝、(不祥事やスキャンダルがあれば)過剰なおわびの言葉が社会にあふれる」状況は、こうした愛への安易な依存の裏返しだと見ているのでしょう。
愛とは他者と慰め合うための道具ではなく、「恋人にも家族にも侵せない個人に属する」もの。劇団態変は、愛に対するこのような見方を問い直し、観客へと投げかけます。その強いメッセージは、「障害自体を表現力に転じ、未踏の美を創り上げる」と宣言し続けてきた劇団の姿勢と深く重なるものです。また、愛をテーマとする契機の一つには、2016年に相模原市の障害者施設やまゆり園で発生した大量殺人事件があると、金氏は語っています。
「役に立たない人間は社会からいなくなった方がいい」という偏見が事件の背景にありましたが、事件から3年が経過した現在も、社会が明確な反論を提示できていないのではないか、と金氏は指摘しています。劇団態変は、この重いテーマをただ深刻に語り直すのではなく、作品のイメージを「弁当」と「箱庭」に託して、より幅広い層にアピールする構成としたのです。
🍱 ファンタジーの冒険が誘う愛の探求
題名の通り、「弁当」と「箱庭」の世界観を題材としたこの作品では、ユダヤ民謡にルーツを持つ伝統音楽と無国籍感を併せ持つクレズマー音楽に乗せて、弁当のおかずやお菓子のキャラクターたちが幻想的な世界を冒険します。ファンタジーの世界観を通じて、子どもを含む幅広い観客層に愛の意味を探求する旅路を届けようとする試みです。
「食」は誰もが関心を抱く普遍的な日々の営みでありながら、家庭や故郷に深く根差す個々人の特殊な体験でもあります。マクロな普遍性とミクロな個の経験とをダイナミックに行き来するこの旅路が、観客に愛とは何かを問いかけるでしょう。ファンタジーの世界を創造しながらも、そこは一筋縄ではいかないのが劇団態変の作品の魅力です。思わず笑ってしまうようなコミカルなシーン**も織り交ぜながらも、「ほっこりとはさせない」と金氏は笑みを浮かべています。
この新作公演は、愛というテーマの深掘りと、劇団態変独自の身体表現による「異形の美」の追求が見事に融合した、まさに必見の舞台となるでしょう。私自身の意見として、愛が盲目的に肯定されがちな現代社会において、その本質に鋭く切り込む金氏の視点は非常に重要であり、障害を持つ方々の身体表現を通じて届けられるメッセージは、健常者の認識を根底から揺さぶる力を持っていると感じています。チケットは一般4,000円、学生3,000円、高校生以下2,000円で、チケットぴあなどで取り扱い中です。
(佐藤洋輔)
コメント