早期利下げ観測で**「金融相場」到来か?米雇用統計ショックがウォール街に巻き起こした株高の波紋**

2019年6月7日のニューヨーク株式市場では、ダウ工業株30種平均が前日比で263ドル値を上げ、取引時間中に約1ヶ月ぶりに2万6000ドル台を回復する場面も見られました。この急騰の背景にあるのは、同日発表された5月の米雇用統計が市場予想を大幅に下回ったこと、そしてこれに伴って米連邦準備理事会(FRB)による早期の利下げ観測が急速に高まったことにあります。景気減速の兆候が、かえって金利の低下を招き、株式市場へと資金が流れ込む**「金融相場」**という特殊な状況が出現しているのです。

この日の雇用統計は、景気の動きを示す非農業部門の雇用者数が前月比わずか7万5千人増と、市場が予想していた18万人増の半分以下という衝撃的な結果となりました。米中貿易摩擦の影響を受けやすい製造業だけでなく、ヘルスケアや建設、さらには専門職・サービスといった非製造業においても伸び悩みが見られ、米経済の減速が一部で懸念されていたよりも広範囲に及んでいる可能性を示唆しています。この弱さが、FRBが景気下支えのために利下げに踏み切るとの期待を一気に増幅させていると言えるでしょう。

経済専門家の間では、かねてより年内の利下げが予想されていましたが、この雇用統計の結果を受けて、その時期を前倒しする動きが顕著になりました。例えば、バークレイズのマイケル・ゲイペン氏は、従来の予想を2ヶ月早め、2019年7月に0.5%、9月に0.25%の利下げがあると見通しています。市場の動向を反映する金利先物相場に基づく**「フェドウオッチ」**の計算では、**7月の利下げ確率は84%**にまで急上昇しており、これはわずか1週間前の53%から大幅に高まった水準であり、市場の利下げへの期待感が極めて強いことがうかがえます。

早期利下げ論の引き金となったのは、6月4日のパウエルFRB議長による「米景気の動向を注視し、景気拡大を持続させるために適切な行動をとる」という発言でした。一見すると当たり前の内容ですが、米中貿易摩擦への懸念が広がる当時の市場では、これは利下げを示唆したものとして受け止められ、投資家心理に大きな影響を与えました。その結果、長期金利は6月7日には一時2.05%まで低下し、これは1年9カ月ぶりの低水準です。5月下旬に2.40%前後で推移していた相場環境は、この利下げ観測によって劇的に変化していると言えるでしょう。

金利が低下すると、債券の利回りも下がるため、相対的に株式の魅力が高まります。これが今回の株高の原動力であり、ダウ平均は今週だけで1168ドルも上昇し、今年の週間上げ幅として最大を記録しました。特に、PER(株価収益率)が高く、投資指標面で割高感があるとされるハイテク株は、金利低下局面で資金が流入しやすい傾向にあります。実際、6月7日にはアップル、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト、フェイスブックといった主要ハイテク銘柄が軒並み3%以上の上昇を見せ、相場全体を力強くけん引しました。金利低下が株式市場への資金流入を促し、株価を押し上げるという、まさに**「金融相場」**の様相を強めている状況です。

このような状況は、SNS上でも大きな反響を呼んでいます。多くの投資家やウォール街の動向を追う人々からは、「雇用統計は悪かったけれど、これはFRBがすぐに動くサインだ!」「利下げパーティーの始まりだ」といった楽観的な声が目立ち、特にハイテク株の上昇を背景にした短期的な利益への期待が高まっている様子です。一方で、「景気減速のサインを無視して株高に浮かれるのは危険ではないか」「バブルの予兆では?」といった懸念の声も散見され、市場の過熱感に対する警戒心も生まれているようです。

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景気減速という「逆風」と利下げの「パーティー」

しかし、本来であれば景気減速は企業収益を圧迫し、株売り材料となるはずです。ニューヨーク連銀が経済指標から実質経済成長率を算出する**「ナウキャスト」という手法によると、2019年4月~6月期の予想成長率は6月7日時点で前期比年率1.0%増と、潜在成長率(2%弱)を大きく下回っています。この予想は雇用統計を受けて、前日の1.5%からさらに低下したものです。需要の伸び悩みに加え、追加関税の影響で仕入れコストが上昇するとなれば、企業収益にとっては強い逆風**となります。

この現実に対し、米運用会社のワシントン・クロッシング・アドバイザーズのチャド・モーガンランダー氏は、「市場ではパーティーが続いているように見えるが、私自身はとても心が躍る状況ではない」と述べており、金融相場が実体経済の悪化を一時的に覆い隠していることへの警鐘を鳴らしています。私自身、この利下げ観測による株高は、実体経済の体温が下がっているにもかかわらず、高熱を出しているかのような一時的な興奮状態ではないかと感じています。

現実に懸念が具体化している業種も存在します。例えば小売株です。主要銘柄で構成される上場投資信託(ETF)「SPDR S&P小売り」は、5月以降に10%も下落し、6月7日時点で過去1年の高値を2割強下回る**「弱気相場」入りしています。さえない決算発表が相次いでいることに加え、中国への追加関税が仕入れコストの増加**に直結するとの警戒感が広がっているためです。この小売業の変調が、今後、他の業種にも波及していくリスクを考えれば、ただ利下げによる株高に浮かれているだけではいられない状況であると、冷静に見極める必要があるでしょう。

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