2019年6月7日、来日中のフィリップ・ハモンド英財務相は、日本経済新聞の取材に応じ、当時混迷を深めていた英国の欧州連合(EU)離脱、いわゆるブレグジット(Brexit)をめぐる議論に一石を投じました。彼は、辞任を表明したテリーザ・メイ首相の後継となる新首相が、EUとより良い離脱条件を交渉しようとするならば、「10月末の期限延期を受け入れなければならない」と強く主張したのです。これは、合意の有無にかかわらず10月末の離脱を目指すとする党首候補の強硬派、特に有力候補であるボリス・ジョンソン前外相を明確に牽制する発言でした。
メイ前首相は、2度にわたる離脱期限の延期を経ても、英国議会である下院の説得に失敗し、ついに2019年6月7日をもって与党である保守党の党首を辞任しました。この政権トップの座を引き継ぐ新たなリーダーの最有力候補と目されていたジョンソン氏は、例え離脱合意が成立しなくとも、予定通り2019年10月末にはEUから離脱するという強硬な姿勢を公言しています。しかし、ハモンド財務相は、実業界の出身で比較的穏健な離脱、すなわちソフト・ブレグジットを支持する派閥として知られており、この強硬路線に真っ向から異を唱えました。
ハモンド氏は、もし合意がないままEUを離脱する、「合意なき離脱」(ハード・ブレグジットとも呼ばれます)に至った場合、「欧州大陸との供給網(サプライチェーン)が断絶し、英国経済の成長が鈍化し、結果として英国民がより貧しくなる」と、その深刻な悪影響を指摘し、断固反対の立場を強調しました。さらに、EU残留を強く望むスコットランドなどの地域を英国が抱えているという事情にも触れ、「英国の統合そのものに非常に強い緊張を強いることになる」との重大な懸念を表明したのです。
私が思うに、ハモンド氏のこの発言は、経済への影響を最も重視する「現実主義」の立場から、英国の将来に対する深い憂慮を示したものと拝察します。強硬派は、主権回復や貿易交渉の自由を重視しますが、金融・経済担当閣僚である財務相として、彼は短期的な経済的混乱がもたらす国民生活への打撃を避けることが最優先であるという強い信念を持っているのでしょう。SNS上でも当時、「経済のプロの言葉は重い」「期限延期は屈辱的だが、国民生活の方が大事」といった、ハモンド氏の発言に共感を示す意見が多数見受けられました。
新首相に求められる「現実的な資質」
ハモンド財務相は、次期首相に求められる資質として最も重要な要素は「現実的である」ことだと述べました。彼は、関税同盟などの将来関係に関する取り決めを網羅したEUとの「政治宣言」の協議を通じて、懸案事項であるアイルランドとの国境問題などで、英国にとってより有利な条件を引き出すべきだと考えを示しました。この国境問題は、離脱後のアイルランド(EU加盟国)と北アイルランド(英国領)の間で、物理的な国境管理を復活させないようにするための仕組みをどうするかという、ブレグジット交渉における最大の難関の一つです。
このような重要な協議を行うための十分な時間を確保し、「EUとの成功した通商関係を継続できるような円滑な移行」を実現するためには、3度目となる離脱期限の延期が不可避であるとの認識をハモンド氏は示しています。これは、合意なき離脱という崖っぷちを回避し、英国とEU双方にとって可能な限り痛みの少ない形で関係を再構築するための、非常に建設的な提案であると言えるでしょう。
なお、ハモンド氏は、2019年6月8日と9日に福岡市で開催される20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議に出席するために来日していました。この会議に関連し、彼は、企業の本社がある国から、デジタルサービスなどの利用者がいる国へと、より多くの税収を配分することを目指す国際的な「デジタル法人課税」の基本方針について言及しました。彼は、今回の会議で「最終的な決定には至らないだろうが、重大な進展を期待している」と述べ、国際的な税制改革への意欲も見せていたのでした。
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