日本の政治シーンにおいて、「シンクタンク」という言葉は、やや縁の下の力持ち的な存在として捉えられがちです。しかし、アメリカ合衆国(米国)に目を向けると、その規模も影響力もケタ違いのシンクタンクが数多く存在していることが分かります。なぜ米国ではこれほどまでにシンクタンクが大きな力を持つのでしょうか。2019年6月8日付の記事では、ジャーナリストである船橋洋一氏の著書『シンクタンクとは何か、政治運動の一部、米で影響力』を取り上げ、その核心に迫っています。
米国でシンクタンクが発展した背景には、特有の文化や制度が深く関係しています。まず、寄付を推奨する税制と文化が挙げられます。これは、慈善活動や公益性の高い活動への寄付に対して税制上の優遇措置を設けていることを指し、多額の資金がシンクタンクに流れ込む土壌となっています。さらに、官僚制度との密接な関係も見逃せません。米国では政権が交代するたびに、およそ4,000人ともいわれる上級の官僚が一気に入れ替わります。シンクタンクは、これらの高級官僚の予備軍としての役割を果たすと同時に、失職した官僚たちの再就職先としても機能しているのです。
船橋氏の著書では、シンクタンクを「中立型」と「唱道型(Advocacy Think Tank)」に分類しています。中立型は客観的な調査・分析に基づく政策提言を行うのに対し、唱道型は特定のイデオロギーや政策を積極的に主張し、世論や政策決定者に働きかけるタイプです。特に米国的な特徴が顕著なのは、巨大な規模を持つイデオロギー的シンクタンク、つまり唱道型シンクタンクの存在だといえるでしょう。これこそが、単なる研究機関ではない、シンクタンクのもう一つの顔を映し出しています。
私の見解ですが、この唱道型シンクタンクは「政治運動の一部」として位置づけるのが最も適切な表現ではないでしょうか。保守派のコーク兄弟のような超富豪だけでなく、多くの国民が、自身の信じるイデオロギーや「大義」に共鳴し、熱心に寄付を行っています。そして、シンクタンク側もそのイデオロギーの旗を高く掲げることで、支持者からの献金を集め、政策への影響力を強めている構造が垣間見えます。日本国内では、シンクタンクが政治運動の一環であるという側面はあまり認識されておらず、今後、日本で新しいシンクタンクを設立する際には、この視点を持つことが成功の鍵となるかもしれません。
シンクタンクの受難と政策起業力の重要性
日本は、政策に関する知見が主に官僚機構に集中しがちな傾向があります。そのため、米国と同じ形態のシンクタンクをそのまま導入するのではなく、日本独自の、より柔軟で多様な知恵を生み出す形を模索する必要があるでしょう。船橋氏は、ご自身のシンクタンク「日本再建イニシアティブ」を2011年に設立された経験も踏まえ、この点について貴重な提言を行っています。
現在は、まさに「政策起業力」が試される時代であると、船橋氏は指摘されています。政策起業力とは、新しい政策課題を発見し、解決策を創出し、それを実現するために政治的・社会的アクションを起こす能力のことです。しかし同時に、ワシントンDCのシンクタンクの多くは、ポピュリズム(大衆迎合主義)の嵐が吹き荒れるトランプ政権下で冷遇されており、実はシンクタンクにとっては厳しい「受難の時代」を迎えています。これは、シンクタンクのコミュニティが、トランプ政権が象徴するポピュリズムに対して、少々無防備だったのかもしれないことを示唆しています。
この記事が公開された当時のSNSでは、この書籍とシンクタンクに関する話題に対し、「米国の官僚制度とシンクタンクの関係性が非常に分かりやすい」「日本と米国の政治文化の違いが浮き彫りになる」といった反響が見られました。特に、シンクタンクが「政治運動の一部」であるという鋭い指摘は、多くの読者に驚きと納得を与えたようです。この受難の時代を経て、今後、より強靭で、現実の課題解決に貢献できる政策知が生まれてくるのかどうか、船橋氏にさらに深掘りしたご意見を伺いたいと感じる読者は多いのではないでしょうか。
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