2019年(令和元年)6月8日現在、名古屋市内の主要な百貨店で、夏の風物詩であるお中元商戦が本格的にスタートいたしました。近年、企業における経費削減の動きや、贈答文化の希薄化により、お中元やお歳暮といった贈答品市場は縮小傾向が続いています。特に、トヨタ自動車の取引先企業で構成される団体が、役員などへの贈答品の自粛を会員企業に要請したという事実は、この市場の厳しい現状を象徴していると言えるでしょう。
しかしながら、このような逆風の中にあっても、各百貨店が今、最も注力し、成果を上げているのが「自分買い」の需要です。これは、本来、取引先や親戚といった相手に贈るはずの高級品や高品質な商品を、自分自身や家族の贅沢品として購入するという新しい消費行動を指します。かつての日持ちする詰め合わせといった「定番のお中元商品」ではなく、この「自宅使い」向けの商品群が、縮小する市場を下支えし、新たな収益の柱として定着しつつあるのです。
「自分買い」市場の活況を牽引しているのが、ジェイアール名古屋タカシマヤです。同店は2000年の開業以来、中元商戦の売上高を前年度実績を下回ることなく伸ばし続けており、その原動力こそが自宅使い商品の好調にあります。2018年度の中元関連売上高は全体で前年比4%増でしたが、自宅使いに限れば驚異的な15%増を達成しました。さらに、2017年度には30%増を記録するなど、その勢いは止まることを知りません。この流れを受け、カタログ「テイスティデイズ」では、酷暑を乗り切るための「うなぎ」や涼しげな「葛切り」といった「お取り寄せグルメ」を特集し、消費者の購買意欲を巧みに刺激しています。
この「自分買い」のトレンドは、SNSでも大きな反響を呼んでいることが伺えます。「#自分にご褒美」や「#お取り寄せグルメ」といったハッシュタグとともに、百貨店で購入した少し高価なスイーツやグルメの写真を投稿する若年層や主婦層の姿が目立ちます。豪華なギフトセットを「ご褒美消費」として楽しむという感覚は、現代の消費者にとって抵抗のない自然な行動になってきているのでしょう。これは、贈答文化が薄れる一方で、日常の中に特別な「プチ贅沢」を取り入れたいという現代人の欲求が、見事に百貨店の戦略と合致した結果だと、私は分析しています。
🎁若年層・女性の心をつかむ、各店の個性的なラインナップ
名古屋三越栄店は2019年5月29日に中元商戦の出陣式を開催し、「家で楽しむお取り寄せ需要」の高まりを強調しました。同店は、主婦層のホームパーティーでの利用を意識し、女性に人気の高いアジアンフードや、高級パティスリー「ラ ブティック ドゥ ジョエル・ロブション」のフルーツタルトなど、華やかで即戦力となる目玉商品を拡充しています。贈答品市場が伸び悩む中、新たな個人顧客を開拓することで、前年比4%の売上高引き上げを目指す強い決意が見て取れます。
また、名鉄百貨店は、送料を自社負担とする「産地直送ギフト」を戦略の柱に据え、商品数を増やして限定商品を拡充し、親しい友人や家族、そして自分用としての購入を促しています。さらに、松坂屋名古屋店では、見た目のインパクトが強く、写真共有アプリ「インスタグラム(Instagram)」で共有したくなる、いわゆる「インスタ映え」するギフトを、前年の24点から31点に増加させました。「すいかパン」や「色えんぴつバウム」といったユニークな商品を通じて、主に若年層の個人客の取り込みを図っているのです。ジェイアール名古屋タカシマヤも、「チョコバナナ」や「フローズン」など、若者向けのカットフルーツを揃え、世代を超えた「自分買い」の需要に応える体制を整えています。
しかし、こうした消費者の財布のひもは決して緩んでいるわけではありません。日本経済新聞社の調査によれば、2019年の中部主要企業の賃上げ率は2.36%と、前年(2.53%)を下回る鈍化傾向にあります。景気の先行きに対する懸念や、米中貿易摩擦、中国経済の減速といった不透明な要因が、消費者の購買行動に慎重な姿勢をもたらす可能性も否定できません。給与の伸び悩みは、特別感のある商品の買い控えにつながりかねないため、百貨店側は「ちょっとした贅沢」という絶妙な価格帯と価値のバランスを見極める必要があるでしょう。
元号が「令和」に改まり、一時的な祝賀ムードも落ち着きを見せ始めた今、各百貨店の編集者として私は、この「自分買い」市場の開拓こそが、今後の市場を左右する鍵になると強く感じています。贈答品としてではなく、生活の質を高めるための「QOL(クオリティ・オブ・ライフ)消費」として、いかに魅力的な商品と体験を提供できるか。若年層をはじめとする個人客の心をつかむ戦略が、今年も熱い中元商戦の行方を決定づけるに違いありません。
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