【日本アニメの未来は?】Netflix異例の包括提携が業界の旧弊を打ち破るか:制作委員会方式・アニメーターの待遇改善への期待

動画配信サービスで世界最大手の米ネットフリックスが、日本のアニメ産業において、その存在感を急速に高めています。2018年から2019年にかけて、国内のアニメ制作会社5社と異例の包括提携を結び、オリジナルアニメの制作体制を本格的に整備しているのです。この動きは、作品の長期供給を約束することで制作会社に安定収入をもたらし、これまで海外で高い評価を受けながらも、古い慣習に縛られてきた日本アニメ界に大きな変革の波をもたらす転機になるかもしれません。

ネットフリックスと提携した制作会社のひとつ、東京・高田馬場に拠点を置くアニマでは、現在、SFアニメ「オルタード・カーボン:リスリーブド」の制作が進行しています。この作品は、体が交換可能となる未来を描く人気ドラマシリーズのアニメ版であり、ネットフリックスとの提携後、初めて手掛けるオリジナルアニメ作品として期待を集めているようです。また、別の提携先であるプロダクション・アイジー(東京都武蔵野市)は、2020年春にネットフリックス向けオリジナル作品として「攻殻機動隊 S.A.C. 2045」を全世界に公開する予定です。プロダクション・アイジーの石川光久社長は、この提携が「会社の知名度を高め」るだけでなく、「海賊版対策にもつながる」と、その効果に大きな期待を寄せていらっしゃいます。

ネットフリックスは、世界各地でオリジナルコンテンツの制作に莫大な投資をしており、2018年にはその制作・調達費用が85億ドル(日本円で約9180億円)にも達しました。通常、作品ごとに個別に契約し、その都度配信するのが一般的ですが、今回、日本の制作会社とは「包括的業務提携」という形をとりました。これは、数年間にわたり複数の作品をネットフリックス向けに制作するというもので、同社も「世界的にも極めて珍しい」提携だと説明しています。ネットフリックス日本法人でアニメ事業を担当する沖浦泰斗アニメディレクターは、この狙いを「優秀な制作会社とクリエーターは希少な資源であるため、魅力的な日本アニメを安定して配信し続けたい」と述べています。

これまでの日本のアニメ業界では、作品ごとの評価によって制作会社の経営やそこで働く従業員の待遇が不安定になる傾向がありました。しかし、今回の長期にわたる包括提携により、アニマの笹原晋也代表取締役は「長期的な安心感を持って制作に取り組める」と、大きなメリットを感じているようです。私が編集者として特に注目しているのは、この提携が日本で長らく一般的だった「制作委員会方式」という商慣行に一石を投じる可能性です。

制作委員会方式とは、アニメを制作・出資する複数の企業(テレビ局、出版社、広告代理店、レコード会社、DVDメーカーなど)が委員会を組織し、リスクを分散しながら作品の企画・製作を行う方式を指します。この方式では関係者が多く、作品に対する注文も増えがちなため、制作開始までに時間がかかるという課題がありました。ネットフリックスと提携した制作会社の幹部の方も、「委員会方式は関わる人が多く、注文も多くなる。ネットフリックス向けの作品は自由度が高い」と、本音を打ち明けています。制作委員会方式は、かつての主要収益源であったDVD販売を前提としていますが、あるアニメ制作会社の首脳は「DVD市場が低迷する中、先行きは厳しい」との見解を示しています。消費者の視聴スタイルが配信へと変化している現在、制作委員会方式は限界を迎えつつあると言えるでしょう。

この新しい流れは、業界を支えるアニメーターの待遇改善につながることも期待されています。日本アニメーター・演出協会などの2019年の調査によりますと、アニメーターの平均年収は440万円、1か月の休日は5.4日と、決して恵まれた労働環境ではありません。この現状が続けば、将来的に人材不足が深刻化し、作品の質の低下を招きかねないという危機感が業界内にはあります。潤沢な資金を持つネットフリックスが提供する安定した制作環境と資金は、優秀な人材を引き付け、ひいては業界全体の底上げにつながる自然な流れだと私は考えます。

日本動画協会(東京・千代田)の調査によると、日本のアニメーション産業の市場規模は2017年に前年比8%増の2兆1527億円に達し、初めて2兆円の大台を突破しました。これは10年前と比べて6割増という驚異的な伸びであり、その原動力は紛れもなく海外での人気です。ネットフリックスとの提携が広がることで、日本アニメの国際的な存在感はさらに高まっていくことでしょう。しかし、世界を舞台に選ぶということは、制作会社同士の競争激化を意味します。ネットフリックスのオリジナル作品は、人気がなければ打ち切られるという実力主義の世界です。

近年、中国やインドなど、他国の作品の品質も着実に向上してきています。日本アニメが今後も成長を続けるためには、コンテンツの付加価値を高めることはもちろん、待遇改善などの「内なる改革」を通じて、世界に通用する優秀な人材を集め続けられるかが、最大の鍵を握っていると言えるでしょう。

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