【法政大学・田中優子総長が綴る】亡き父の「仙台平」を帯に。時代を超えて受け継がれる布の記憶と宝尽くしの願い

2019年08月14日、お盆の静かな風が吹く中で、法政大学総長の田中優子さんが語る「布に宿る魂」の物語が、私たちの心に深く響いています。江戸時代から続く伝統の極み「仙台平(せんだいひら)」の袴を、亡き父の思い出とともに帯へと仕立て直したというエピソードは、単なる着回しを超えた、家族の絆を象徴する美しい物語と言えるでしょう。

ここで「仙台平」という言葉について少し解説いたします。これは仙台藩の御用織師が考案したとされる、男性用袴地の最高峰ブランドです。国の重要無形文化財にも指定されており、その独特の張りとしなやかさは、まさに武士の嗜みを今に伝える逸品です。現代では袴を日常的に召す方は稀ですが、田中さんの父上にとって、それは人生の重みを表す特別な勝負服だったのです。

田中さんの父上は、幼くして父を亡くし、経済的な苦難から小学校卒業後に丁稚奉公へ出された苦労人でした。独学で技術を身につけ、空調機設計の技師として家族を支え抜いたのち、晩年にようやく辿り着いたのが「謡(うたい)」の世界だったそうです。能の詞章を独特の節回しで歌うこの伝統芸能の舞台に立つ際、父上が大切にしていた「一張羅」こそが、仙台平の袴だったのでした。

SNS上でもこのエピソードは大きな反響を呼んでおり、「物を大切にする心が素晴らしい」「お父様の苦労と成功が詰まった布地、その重みに感動した」といった共感の声が相次いでいます。1995年ごろに父上が他界されてから24年という歳月が流れてもなお、その袴は形を変えて田中さんの腰を支え、家族の歴史を今に繋ぎ止めている事実に、多くの方が胸を熱くしているようです。

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日本独自の美学が詰まった「宝尽くし」の刺繍

田中さんが仕立て直した帯には、母上の友人である日本刺繍家によって「宝尽くし」の文様が施されています。宝尽くしとは、縁起の良い宝物を散りばめた吉祥文様のことで、中国から伝わった「丁子(クローブ)」や「金嚢(きんのう:お守り袋)」に加え、日本で独自に発展した「隠れ蓑(みの)」や「打ち出の小槌」などが描かれているのが特徴と言えます。

特に「隠れ蓑」や「隠れ笠」は、身に着ければ姿を消すことができるという魔法のアイテムとして、日本の昔話ではお馴染みですよね。これらが文様に加わっている点は、大陸の文化を日本流に昇華させた、独自の美意識の表れだと田中さんは分析されています。そんな願いが込められた帯を締めることで、父上の魂に見守られているような安心感を得られるのかもしれません。

編集者の私自身の視点から申し上げれば、現代の使い捨て文化とは対極にあるこの「布の伝承」こそ、私たちが今見直すべき美徳ではないでしょうか。新しいものを買い求めるだけが豊かさではなく、故人の記憶が染み込んだ素材に新たな命を吹き込む「アップサイクル」の精神は、これからの持続可能な社会においても極めて重要な指針になると確信しております。

2019年08月14日の今日、田中さんは祖母や母から受け継いだ小物たちとともに、父上の魂を家に迎え入れる準備をされています。着物は単なる衣服ではなく、技術と記憶の受け渡しを可能にするタイムカプセルのような存在です。皆さんもこの夏、箪笥の奥に眠る家族の物語に想いを馳せ、日本の文化が持つ深い精神性に触れてみてはいかがでしょうか。

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