2019年6月11日に閉幕した「世界デジタルサミット2019」(日本経済新聞社・総務省主催)では、デジタル技術がもたらす未来社会、特にキャッシュレス社会の可能性に焦点が当てられ、熱い議論が交わされました。金融とIT(情報技術)を融合させた新分野、フィンテックを牽引する企業のトップらが登壇し、キャッシュレス化がどのように新産業の創出を促進するのか、その展望について意見交換が行われたのです。サミット全体を通じて、未来のデジタル経済の「土台」をいかに日本に築くかが、最大のテーマとなったと言えるでしょう。
現在、日本におけるキャッシュレス決済比率は、QRコードやクレジットカードなどを含めても約2割にとどまっており、欧米や中国といった先進国・地域に比べ、フィンテックのインフラ構築やサービス面で遅れをとっているのが実情です。こうした状況に対し、政府は2019年10月の消費税率引き上げや、翌年の東京オリンピックを大きな契機と捉え、普及を後押ししています。具体的には、2020年代の半ばまでにキャッシュレス比率を4割以上に高めるという野心的な目標を掲げているのです。この目標達成は、日本のデジタル変革のスピードを決定づける重要な試金石となるに違いありません。
登壇した企業の代表者からは、キャッシュレス化の重要性を訴える力強いメッセージが相次ぎました。SBIリップルアジアの沖田貴史代表取締役は、「ライドシェアなどのシェアリングエコノミー(個人や企業などが保有するモノや場所、スキルなどをインターネット経由で共有・貸し借りする経済活動)は、キャッシュレスが大前提」であると指摘しました。さらに、「効率化だけでなく、新しいサービスが次々と生まれるのが醍醐味であり、先行する中国や東南アジアからはフィンテック企業がどんどん誕生している」と述べ、日本もこの動きに迅速に対応するべきであると、強く提言なさっています。
スマートフォン決済サービスを手掛けるOrigami(オリガミ)の康井義貴社長も、キャッシュレスの推進によって「お金の移動など、社会的コストを圧倒的に減らせる」というメリットを強調なさいました。そのうえで、「キャッシュレスの裏側には必ずデータが存在する」とし、「日本も(お金の流れといった)データを徹底的に分析し、(海外勢と)データの戦いを繰り広げる必要がある」と述べ、単なる決済手段の変更に留まらない、データ戦略の重要性を訴求しています。
また、クラウド会計ソフトを提供するマネーフォワードの辻庸介社長は、フィンテック分野での日本の競争力を高めるためには、決済、送金、融資などでそれぞれ根拠となる法律が異なる「縦割りの規制」を改めるべきだと強調なさいました。日本には「消費者保護の文化が特に強い」という特性があります。これを生かしながら、いかにフィンテックの健全な発展を両立させていくか。これが、規制当局と企業の双方に課された、大きな命題なのでしょう。
増大する個人データの保護とデータセンターの役割
キャッシュレス化が進むことで生まれる膨大な個人データの保護についても、重要な提起がありました。暗号資産の基盤技術であるブロックチェーン(取引履歴を鎖のようにつなぎ、分散して記録・管理する技術)などを開発するインプット・アウトプット・ホンコンの創業者、チャールズ・ホスキンソン最高経営責任者(CEO)は、「暗号化された資産について、金融機関ではなく、個人が自ら管理することが重要になる」と述べ、分散型の考え方に基づくセキュリティの重要性を力説しています。個人のデータ主権を確立することが、デジタル社会における信頼の基盤となるのでしょう。
また、データセンターを運営するブロードバンドタワーの藤原洋会長兼社長は、現行のSNS(交流サイト)など向けから、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、そして次世代通信規格である「5G」向けへと、データセンターの役割が世代交代していると説明なさいました。「データセンター技術を社会課題の解決に生かしていく」という力強い言葉の通り、データセンターは、単なる情報の保管場所から、新しいデジタルサービスを支える社会インフラへと変貌を遂げつつあるのです。私の見解では、データセンターは、これからの日本のデジタル競争力を支える、見えない心臓部となっていくに違いありません。
このサミットでの議論を受け、SNS上でも大きな反響を呼んでいます。「キャッシュレスは便利だけど、高齢者への対応が課題」「やっぱりデータ保護は心配」といった意見に加え、「中国やアメリカのスピード感に、日本はこのままでは取り残されるのではないか」という危機感を示す声も多く見受けられました。特に、「キャッシュレス=データ」という指摘は多くの読者の共感を集め、単なる決済の利便性だけでなく、その裏側にあるデータエコノミーの可能性とリスクについて、改めて考えるきっかけとなったのではないでしょうか。このサミットは、日本が真のデジタル経済大国へと飛躍するための、羅針盤となる重要な議論を提供したと言えるでしょう。
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