2019年後半の化学業界はどうなる?三井化学・佐藤常務に聞く「自動車市場減速」と「プラスチック軽量化」の最前線

2019年08月16日現在、化学業界は大きな転換点を迎えています。米中貿易摩擦の激化による世界経済の減速は、石油化学製品の価格にも影を落とし始めました。特に、自動車のバンパーなどに多用される「ポリプロピレン」のアジア市場価格は、昨秋のピークから約2割も急落し、1トンあたり1000ドル前後で推移している状況です。この背景には、巨大市場である中国やインドでの新車販売不振が深く関わっています。

ポリプロピレンとは、熱に強く加工しやすいプラスチックの一種で、私たちの生活に欠かせない素材です。三井化学の常務執行役員である佐藤幸一郎氏は、現在の厳しい市場環境について、中国経済の停滞が需要減に直結していると指摘します。しかし、この素材は包装資材や産業資材など用途が非常に広いため、全体的な需要は底堅いと分析されています。原料であるナフサ価格との差益も一定水準を保っており、悲観しすぎる必要はないかもしれません。

SNS上では、こうした素材価格の下落に対して「製品の値下げに繋がるのか」と期待する声がある一方で、製造現場からは「先行きが見えず、在庫調整が難しい」といった不安の声も漏れ聞こえています。世界経済の動向が、目に見える形でプラスチック製品の価格競争に波及しているのが今という時代のようです。投資家たちの間でも、自動車市場の動向と連動する化学メーカーの株価に、これまで以上に鋭い視線が注がれています。

世界的な自動車販売の冷え込みと日本の現状

自動車市場の現状を詳しく見ていくと、特に新興国の苦境が目立ちます。中国では2018年07月から販売台数が前年を下回り続けており、インドでも2018年末ごろから急激な落ち込みを見せているのです。インドの不振については、ノンバンクによる貸出規制や、2020年から導入される厳しい新排ガス規制を控えた買い控えが主な原因だと考えられます。このように、環境規制や金融情勢が複雑に絡み合い、市場の足を引っ張っている形です。

対照的に、日本国内の自動車販売は今のところ前年を上回るペースを維持しています。2019年10月に控えた消費増税を前にした「駆け込み需要」はそれほど目立っておらず、三井化学の佐藤氏は増税後の反動減も限定的だろうと予測されています。国内市場が比較的落ち着いていることは、日本の化学メーカーにとって数少ない救いと言えるでしょう。とはいえ、世界的な景況感の悪化がいつ国内に波及するか、油断できない状況が続いています。

こうした状況下で、三井化学の事業にも一部影響が出ています。例えば、自動車の窓枠などに使われるシール材の原料となる「合成ゴム」の需要が減少しているようです。サプライチェーンを辿ると、やはり新興国での販売不振が原因であることが判明しました。一方で、日系メーカー向けが半数以上を占める「ポリプロピレンコンパウンド」は堅調さを保っています。これは、用途に合わせて他の素材を混ぜ合わせ、性能を高めた高機能なプラスチックのことです。

「金属から樹脂へ」がもたらす化学業界の勝機

新車販売の台数自体が伸び悩む中でも、プラスチック素材への期待は高まるばかりです。その鍵を握るのが「車両の軽量化」というキーワードになります。現在、自動車1台あたり50キロから60キロほどの混合樹脂部材が使用されていますが、この量はさらに増える見込みです。重い金属部品をプラスチックに置き換えることで、燃費性能を向上させることが、メーカーにとって喫緊の課題となっているためです。

最近では、SUVやハッチバック車のバックドアなど、これまで金属が当たり前だった箇所にもプラスチックが採用され始めています。このトレンドが広がれば、たとえ販売台数が多少減ったとしても、1台あたりのプラスチック使用量が増えることで需要を押し上げることになります。三井化学は、この中長期的な成長を見据え、2020年にはインドやタイでの増強に加え、オランダでの新拠点立ち上げも計画通りに進める方針です。

編集部としての見解ですが、現在の不透明な経済状況は、化学メーカーにとって「真の技術力」が試される試練の時だと言えます。単に素材を売るだけでなく、自動車メーカーの軽量化ニーズにどれだけ深く応えられるかが、今後の勝敗を分けるでしょう。SNSでも「これからはプラスチックの質が車の価値を決める」という意見が見られますが、まさにその通りで、素材の進化が次世代のモビリティを支える土台になるのは間違いありません。

国内市場の焦点はナフサ価格と値決め交渉の行方

2019年度上期の国内市場を振り返ると、ポリプロピレンの内需は非常に堅調でした。2018年に実施された大規模な設備修理による生産減の反動もあり、自動車向けの射出成型(型に流し込んで形を作る手法)などが市場を力強く牽引した形です。しかし、下期に向けては海外の需要減退が国内にどのような悪影響を及ぼすかが最大の焦点となります。楽観視できない局面に入ったといえるでしょう。

また、国内特有の商習慣も課題となっています。アジア市場のようなスポット取引とは異なり、日本では「ナフサ」の価格を基準に数ヶ月ごとに価格を決めるのが一般的です。ナフサとは原油から精製される粗製ガソリンで、プラスチックの最も基本的な原料です。各社は春先までのナフサ高騰を受けて値上げを打ち出しましたが、その後に価格が下落したため、現在は価格交渉が非常に難航しているという皮肉な状況にあります。

このように、原材料価格の変動と世界的な需要の変化という板挟みの中で、2019年下期の石油化学業界は難しい舵取りを迫られています。しかし、三井化学のように2年から3年先を見据えた中期戦略を崩さない姿勢こそが、不況を乗り越える力になるはずです。自動車の進化とともに形を変えるプラスチックの可能性に、今後も目が離せません。この記事の内容が、今後の市場動向を読み解く一助となれば幸いです。

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