日本における企業買収の在り方が、今まさに大きな転換期を迎えています。2019年8月16日、不動産大手のユニゾホールディングスは、米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループと提携し、株式の非公開化を目指すと発表しました。これは、先に買収を提案していた旅行大手エイチ・アイ・エス(HIS)に対抗する、極めて戦略的な「ホワイトナイト(友好的な買収者)」の導入と言えます。
SNS上では「ついに日本でも本格的な買収合戦が始まった」「株主にとっては価格が上がるのは大歓迎」といった声が上がっており、単なる企業同士の争いを超えた関心が集まっています。かつてのM&Aは、経営者同士の密室での話し合いで決まることが一般的でしたが、現在は「どちらがより高い価値を株主に提供できるか」を公の場で競い合う、透明性の高いスタイルへと進化を遂げているのです。
HISの提案を拒絶したユニゾの勝算と「TOB」の仕組み
そもそも、事の発端はHISによる「TOB(株式公開買い付け)」でした。TOBとは、不特定多数の株主から市場を通さずに直接株式を買い集める手法のことです。HISは1株3100円という条件を提示しましたが、ユニゾ側は「事業の相乗効果が見込めないだけでなく、提示価格が本来の企業価値を著しく下回っている」と猛反発。自らの価値を正当に評価してくれるパートナーを水面下で模索していました。
ユニゾが最終的に選んだフォートレス社が提示した金額は、1株あたり4000円。これはHISの提示額を約3割も上回る破格の条件です。買収総額は負債を含めると約7000億円という、2019年内でも国内最大規模の案件となる見通しを立てています。このように、複数の買い手が条件を競い合う状況は、まさに「対決型M&A」と呼ぶにふさわしい新潮流と言えるでしょう。
私は、この動きを日本市場の健全化に向けた大きな一歩だと確信しています。これまでの日本企業は、経営陣の保身のために株主の利益が二の次になる傾向がありましたが、今回のユニゾの決断は、より高い売却機会を株主に提供するという「資本主義の原則」に忠実なものです。経営者が投資家からの厳しい視線を意識せざるを得ない時代が、ついに到来したのです。
「物言う株主」の影と試されるコーポレート・ガバナンス
しかし、この買収劇がすんなりと決着するかは予断を許しません。2019年8月16日時点のユニゾの株価は、フォートレスの提示額すら上回る4165円まで急騰しています。背景には、エリオット・マネジメントのような、企業に対して積極的に経営改善を迫る「物言う株主」が株式を買い増しているという事情もあり、今後の価格交渉がさらに激化する可能性を秘めています。
こうした対決型の構図は、ユニゾに限った話ではありません。2019年に入り、伊藤忠商事によるデサントへの買収や、ドラッグストア業界でのココカラファインを巡る争奪戦など、企業の「ガバナンス(企業統治)」が問われる事例が相次いでいます。ガバナンスとは、企業が不正を行わず、株主のために効率的な経営を行っているかを監視する仕組みのことですが、この意識が日本全体で劇的に高まっています。
現在の日本経済において、収益性の低いまま放置されている企業は、容赦なく市場から「NO」を突きつけられる運命にあります。対決型のM&Aが増えることは、企業間に心地よい緊張感をもたらし、結果として日本企業全体の国際競争力を底上げする起爆剤になるはずです。一連の騒動は、単なる一企業の買収劇ではなく、日本流の経営が脱皮するための産みの苦しみなのかもしれません。
コメント