2019年08月15日、日本の監査業界に新たな風が吹き込みました。EY新日本有限責任監査法人のトップに就任した片倉正美理事長は、AI時代の到来を見据えた大胆な組織変革を打ち出しています。企業のビジネスモデルがかつてないほど複雑化する中で、公認会計士には単なる数字のチェックに留まらない、より高度な専門性が求められるようになりました。片倉氏は、監査品質の向上と働き方改革を両輪として、組織のあり方を根本から見直そうとしています。
特に注目を集めているのが、テクノロジーを駆使した「監査のスマート化」です。これまで人間が手作業で行っていた膨大な事務作業を、ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)に委ねる計画が進行しています。RPAとは、コンピューター上の定型業務を自動化するソフトウェアのことで、これにより間接業務の時間を2年以内に1割削減することを目指しています。浮いた時間を経営者との対話に充てることで、真に価値のある監査を提供できるというわけです。
AIが実現する「継続的監査」とデジタル人材の育成
さらに革新的な取り組みとして、2019年からはAI(人工知能)を活用した「継続的監査」が本格的にスタートしました。これは、企業の仕訳データをリアルタイムで分析し、通年で不正やミスの兆候をチェックする画期的な仕組みです。従来のように決算期末に作業が集中する「繁忙期の過酷な労働」を解消し、業務の平準化を図る狙いがあります。SNS上では「地獄の決算期が変わるかもしれない」と、若手会計士を中心に大きな期待が寄せられているようです。
このようなデジタルシフトを加速させるため、片倉理事長は「STEM人材」の採用と育成にも注力しています。STEMとは、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)の頭文字をとった言葉であり、これからの会計士には計算能力だけでなく、データサイエンスの素養が不可欠であると説いています。伝統的な「文系資格」としての会計士像は、今まさに大きな転換点を迎えているといえるでしょう。
一方で、質の高い監査を維持するためには相応の対価も必要です。片倉氏は、M&Aなどによる企業統治(ガバナンス)の劇的な変化や、膨大な作業工数に見合わない低い報酬については、適正な値上げを交渉する姿勢を鮮明にしました。監査法人が企業の健全性を守る「市場の番人」として機能し続けるためには、経済的な基盤の安定と、それに見合うプロフェッショナルとしての自覚が、双方に求められている時代なのです。
無意識の偏見を打破し、女性パートナー比率30%を目指す
業界初の女性理事長として、ダイバーシティ(多様性)の推進も片倉氏の重要なミッションです。現在わずか8%に留まっている女性パートナー(経営幹部)の比率を、長期的には30%まで引き上げるという野心的な目標を掲げました。この目標達成を阻む壁として氏が指摘するのが、自分自身では気づかない「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」です。「女性にはこの仕事は無理だろう」といった先入観を排除することが、組織の活性化に繋がります。
女性会計士の活躍を促すためには、入り口となる若年層へのアプローチも欠かせません。片倉氏は自ら中学校や高校の文化祭に足を運び、商売の仕組みや利益の面白さを伝える活動を計画しています。会計士試験合格者に占める女性の割合は約2割というのが現状ですが、早い段階で「数字で社会を支える魅力」を伝えることで、この比率自体を底上げしたいという強い想いを感じます。編集者である私自身も、この草の根の活動こそが業界の未来を変える鍵になると確信しています。
2019年08月15日時点のこの方針は、単なる組織の若返りではなく、日本全体の働き方や価値観をアップデートする挑戦だといえます。AIによる効率化と、多様な視点を持つ人材の融合。これこそが、激動の時代において監査法人が生き残る唯一の道ではないでしょうか。片倉正美氏が率いる新体制が、硬直化した日本のビジネス界にどのようなインパクトを与えるのか、今後の展開から目が離せません。
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