近年、企業の持続的な成長戦略として「健康経営」という考え方が注目を集めています。これは、単に社員の病気を減らすことにとどまらず、従業員の健康を維持・増進するための取り組みを将来の収益向上に結びつく投資として捉え、積極的に推進していく経営手法のことでしょう。経済産業省と東京証券取引所が2015年から「健康経営銘柄」の選定を始めるなど、その普及促進の動きは全国的に活発化していますが、この波が今、九州地方の企業にも確実に広がっているのです。
特に、人手不足が慢性化しつつある昨今、社員の健康問題は企業の持続可能性を脅かす「経営リスク」と認識され始めています。そのため、従来型の禁煙推進といった施策に加え、社員が楽しみながら気軽に参加できるような、工夫を凝らした制度の導入が目立ってきました。その中でも、特にユニークな取り組みを展開している九州の先進企業を紹介しましょう。
歩けば健康に、そしてポイントに!社員のモチベーションを高めるインセンティブ施策
九州を代表するエネルギー企業である西部ガスは、2019年5月から「ウオーキングチャレンジ」を開始しました。これは、健康管理アプリ「Pep Up(ペップアップ)」の歩数計機能を活用したもので、社員の健康増進を目的とした取り組みです。会社が設定した1人当たり1日8,000歩という目標に向かって歩くことで、その歩数に応じてポイントが付与される仕組みになっており、この貯めたポイントは腹筋マシンなど、社員が自由に選べる健康用品と交換できるというから嬉しいですね。役員を含めた全従業員11人が参加し、部署対抗で歩数を競い合う体制も導入されたことで、社内では「本社最寄りの1駅手前で降りて歩いてくる人がいる」など、早くもポジティブな変化が見られ、社内SNSでも「部署で競うのが楽しい!」「目標達成して健康グッズをゲットしたい」といった好意的なコメントが多く見受けられました。
同社は禁煙推進にも力を入れており、喫煙率を現在の約3割から6〜7年かけて2割へ引き下げる目標を掲げました。また、社員の配偶者に対する乳がん検診(マンモグラフィー)といった特定健診の受診奨励や、保健師と産業医が監修した啓発小冊子「健康づくりサポートブック」の配布など、多角的な支援を通じて健康への意識向上を図っています。社員の健康を多角的にサポートする、非常にきめ細やかなアプローチだと言えるでしょう。
九州の製造業も断固たる対策!トヨタ九州の全面禁煙と卒煙支援
喫煙対策という点では、自動車製造大手のトヨタ自動車九州(福岡県宮若市)も踏み込んだ施策を打ち出しています。同社は、2020年1月から期間工を含む約1万1,000人の全社員を対象に、同社3工場の全敷地内での全面禁煙を実施する予定です。現在の喫煙率は4割を超える状況ですが、受動喫煙のリスクを踏まえ、社員の健康を守るための断固たる決断を下しました。同社は、社員の健康相談に応じる「ヘルスケアセンター」を通じて、禁煙を目指す社員の卒煙(禁煙に成功すること)を強力にサポートしていく方針です。喫煙習慣は個人の嗜好にとどまらず、受動喫煙による周囲への悪影響や、長期的な医療費の増大といった「企業のコスト」になりかねません。このようなリスクを排除し、快適な職場環境を整備する同社の姿勢は、他の製造業にとっても手本となるはずです。
「動く」「食べる」を意識改革!中小企業でも広がる健康への投資
総合商社の南国殖産(鹿児島市)も、社員の運動不足解消に一役買う施策を導入しました。2018年には、歩数計アプリを導入し、社員間での歩数競争を促進した結果、デスクワーク中心の社員たちの1日当たり平均歩数が約500歩増加するという目覚ましい成果を上げています。さらに、若手社員に朝食を欠食する傾向が見られたことから、本社内に栄養補助食を提供する有料の朝食コーナーを設置しました。また、中高年層に対しては、「ゴルフの技術向上につながるストレッチ」という具体的な関心を引きつけるネーミングで運動セミナーを実施し、管理職の約7割が参加するなど大盛況を博しました。これらの取り組みからは、社員の生活習慣をきめ細かく把握し、彼らの興味やニーズに合わせた施策を展開することの重要性がうかがえます。
電気設備を製造する正興電機製作所では、定番のラジオ体操に加え、より運動量の多いフィットネスを職場の習慣として取り入れました。主力工場のある古賀事業所にはジムを開設し、社内インストラクターを養成することで、昼休みに行う「10分ランチフィットネス」を推進しています。終業後にジムを利用する社員も多く、手軽に運動できる環境を整備しています。同社は2017年に約800人の社員に歩数や消費カロリーを測定できるウェアラブル端末(身につけて利用する情報機器)を配布し、健康診断の結果と組み合わせて健康状態をデータ化しています。2021年までの完全禁煙を目指すほか、運動実績をポイント化する「健康マイレージ制度」の導入も検討しており、データに基づいた健康管理を徹底する方針です。
【編集部の意見】九州の健康経営は「熱意」と「工夫」で東京に追いつける!
経済産業省などが選定する「健康経営優良法人2019」(大規模法人部門)では、全国で821法人が選ばれたのに対し、九州管内の認定は34法人に留まっています。この背景には、東京に本社を置く大企業の取り組みが先行している実情があるからです。しかし、今回紹介した九州企業の事例は、その「熱意」と「工夫」において、首都圏企業の取り組みに決して引けを取らないものばかりでしょう。特に、ウォーキングをポイント化する西部ガスや、工場全面禁煙を打ち出すトヨタ自動車九州のように、社員の行動変容を促すインセンティブ設計や、明確な経営判断に基づいた施策は、地方企業が健康経営を加速させるための大きなヒントになると確信しています。
健康経営は、一過性の福利厚生ではなく、企業の生産性向上と社員の活力向上という両輪を回すための重要な経営戦略です。九州の企業が持つ、地域に根差した団結力や現場力が、このような取り組みを通じてさらに磨き上げられることに、大きな期待を抱いています。この波が、さらなる九州企業の健康と成長を後押しすることを願っています。
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