2019年6月12日、米中貿易協議の雲行きが不透明ななか、中国政府がハイテク分野における独自の技術を国外へ輸出する際に制限をかける新たな制度の創設検討に入ったことが明らかになりました。これは、米国が中国に高い割合で依存しているレアアース(希土類)関連の技術などを想定している可能性が高く、貿易戦争における新たな交渉カードを模索している動きと言えます。
これまで高関税の応酬では、対米輸出額が多い中国が相対的に不利な状況にあったため、米国企業の弱点を直接突くことで、通商交渉を有利に進めたい狙いがあるのでしょう。しかし、この種の対抗策は中国企業自身にも悪影響を及ぼしかねません。こうしたリスクを冒してまで規制案を打ち出す背景には、共産党指導部の焦燥感が透けて見えます。
🛡️「技術のファイアウオール」構築へ:中国独自の対抗措置
中国政府が今回検討している規制は、2015年に施行され、社会統制を強化する目的を持つ国家安全法などに基づくとされています。この制度は「国家技術安全管理リスト」と呼ばれ、共産党機関紙の人民日報は論評で「技術のファイアウオールを築け」と強く主張しています。具体的な規制の対象技術はまだ発表されていませんが、中国国営の新華社通信は、この新制度に関する記事の中で、レアアースの技術を具体的に挙げる専門家の意見を紹介しました。
レアアースとは、ハイテク製品に欠かせない17種類の金属元素(希土類)の総称で、電子部品や磁石、触媒などに広く利用される戦略物資です。中国は世界の生産量の約7割を占めるレアアース大国であり、米国は輸入量の約8割を中国に頼っています。そのため、米国企業幹部からは「中国側が米国のアキレス腱とみて標的にする可能性が非常に高い」と強い警戒感が示されています。
また、人民日報は、中国がイノベーションを起こした分野として、航空宇宙や高速鉄道、モバイル決済、そして次世代通信規格である5Gを強調し、これらの分野が規制の対象となる可能性を示唆しています。特に5G分野では、必須となる特許出願数で中国が3割強を占めているとされ、ハイテク分野における中国の存在感は目覚ましく高まっているのは事実です。
💣米企業への「警告」と中国版ELの創設
ハイテク分野では、すでに米国が中国通信機器最大手である華為技術(ファーウェイ)の排除に向けた動きを加速させています。しかし、中国側が単に技術の輸出を制限するだけでは、必ずしも有効な交渉カードにはならないという見方もあります。そのため、習近平最高指導部の矛先は、米国企業の中国拠点に向けられている可能性も考えられます。
人民日報系の環球時報は、「米国企業は非常に多くの技術で優位性を持っているが、中国は世界最大の工場だ。技術の規制を通じて、米国企業のサプライチェーン(供給網)に打撃を与える能力がある」と牽制しています。実際、中国政府幹部は先週、マイクロソフトやデルといった米国企業の幹部を呼び出し、中国企業を排除する米政権の動きに対する各社の対応を聴取するとともに、中国側の立場を説明しました。
その場では、「複雑な状況を十分に理解する前に、軽率な判断を下すのはやめた方がいい」と、米企業に対し強い圧力がかけられたようです。米メディアの報道によれば、米国のトランプ政権が打ち出したファーウェイなど中国企業の排除方針に従えば、「深刻な結果が生じる」とまで警告したといいます。これにより、米企業幹部は「米中両政府の間で、極めて難しい立場に立たされた」と苦しい胸の内を明かしています。
💡焦りの裏返し?守勢の中国がとる「同等の」対抗策
この輸出規制や米企業の中国拠点への圧力は、短期的には米企業に大きな打撃を与えることが見込めます。しかし、その一方で、長期的には中国国内の製造業が海外へ移転する空洞化につながる恐れもはらんでいます。このような大きなリスクと表裏一体の規制案は、習指導部の焦りを映し出している側面も強そうです。
中国が米国への対抗措置として2019年6月1日に発動した第3弾の制裁関税の規模は、米国の3分の1にも満たない600億ドル(約6兆5千億円)にとどまりました。これは、中国の対米輸入額が米国の対中輸入額の3割弱にとどまるため、制裁関税の打ち合いでは中国が不利な状況にあるからです。米国は安全保障上の懸念がある外国企業をリストアップする「エンティティー・リスト(EL)」に多くの中国企業を記載し、ファーウェイへの事実上の輸出禁止規制も打ち出しており、2019年5月に激化した米中貿易交渉の先行きは、まさに五里霧中です。
現在守勢にある習指導部は、米企業への「警告」と同時に、米国の手法を模倣した対抗策に出ているとも言えます。2019年5月31日には、中国企業に不当な損害を与えた外国企業を列挙する「中国版EL」を創設すると発表しました。さらに2019年6月4日には、レアアースの新しい輸出管理規制を設ける方向で検討に入ったことが判明しています。
一方で、中国商務省は2019年6月6日に米中貿易に関する報告書を公表し、「米中貿易は双方に利益がある」と強調しました。景気の先行き不安を抱える中国は、米国との対立がこれ以上過熱しすぎないよう、慎重に制御しようとしているという見方も存在します。私見ですが、中国が持つ技術力や製造能力は、国際経済において無視できないほど巨大化しており、その技術を「盾」として使おうとする姿勢は理解できます。しかし、世界的なサプライチェーンが分断されれば、それは結局、中国自身の経済発展の足かせになりかねません。世界がこの貿易戦争の行方を固唾をのんで見守っていることでしょう。


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