2019年6月7日、ドナルド・トランプ米大統領は、10日に発動予定だったメキシコからの全輸入品に対する関税措置を「無期限」で見送ると電撃的に発表いたしました。これは、不法移民対策に関するメキシコ側の「強硬な措置」を巡る両国間の土壇場での合意によるものです。自動車メーカーをはじめとする産業界のサプライチェーン(供給網)寸断という最悪の事態はひとまず回避されましたが、トランプ氏が繰り出す「ディール」(取引)としての関税の脅しは、世界経済に重くのしかかる火種として残されている状況です。
期限が目前に迫る中、欧州歴訪から帰国したばかりのトランプ大統領は、自身のツイッターで「メキシコが移民を食いとめる強硬な措置を取ることで合意した」と勝利を宣言されました。この合意は、メキシコ政府が提案した内容を受け入れる代わりに、関税発動を停止するという形で成立したものです。この「トランプ流」の外交手法は、関税という強烈な経済的圧力を武器に、相手国から譲歩を引き出すという、まさに**「ディール外交」の真骨頂と言えるでしょう。
具体的な合意の骨子としては、(1)メキシコが自国の南部、特にグアテマラ国境付近に国家警備隊を配置し、メキシコを経由した米国への不法入国を阻止すること、(2)米国に不法入国して保護申請**(難民申請などに類する手続き)を行った移民をメキシコ側へ戻し、申請審査が完了するまでメキシコ国内で待機させること、などが盛り込まれています。さらにトランプ氏は8日には、メキシコが大量の農産品を購入することにも合意した、と付言されています。
米国のメキシコからの輸入総額は、2018年には3465億ドル(約38兆円)にも達しており、これは中国に次ぐ第2位の輸入相手国であります。また、メキシコにとっても米国は輸出の約8割弱を占める最大の取引先であるため、今回の関税が発動されればメキシコ経済は景気後退に陥るとの懸念が強く浮上していました。関税が回避されたことに対し、メキシコの有力経済団体からは「忍耐強く交渉したことが結果に結びついた」と**安堵(あんど)**の声が上がっているのです。
🇺🇸経済界の安堵と残る懸念:関税カードの副作用と再燃リスク
米国が中国に加え、メキシコとも本格的な貿易戦争に突入することになれば、その副作用は避けられません。特に、対メキシコ輸入の4割弱を占める自動車産業など、米国とメキシコにまたがる複雑な供給網(サプライチェーン)を持つ産業界や議会からは、関税発動への強い反対意見が出ていました。今回の回避決定は、米産業界からは歓迎されており、彼らは北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる新しい協定の早期批准を促す構えを見せています。また、日本の自動車大手幹部からも「ほっとした」という声とともに、「関税を巡る突発的な動きが今後もあると思うと頭が痛い」という本音が漏れており、世界経済の不安定要素は解消されていません。
トランプ大統領は、この**「関税カード」を切ることで、メキシコ政府から移民対策という政治的な譲歩を引き出すことに成功いたしました。これは、2020年の米大統領選挙での再選に向け、自身の「成果」として有権者に力強くアピールすることは確実でしょう。この手法は、交渉を有利に進めるために極端な要求や圧力を用いる「瀬戸際戦術」とも言え、短期的には成功を収めても、長期的には国際関係に不信感を残すリスクも伴います。
しかしながら、今回のメキシコの対策がどれほどの実効性を発揮するのかは、依然として不透明です。共同声明には、期待した効果が得られなかった場合には追加措置を検討することが明記されています。例えば、今回配備が決まった国家警備隊は創設されたばかりで、すぐにグアテマラ国境付近に6千人規模の部隊を迅速に派遣できるのかは定かではありません。仮に移民対策の実効性が伴わないと米国側が判断すれば、自らを「タリフマン(関税男)」と自称するトランプ大統領が、再び強硬手段**に打って出るリスクは、決して捨てきれない状況でございます。
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