少子高齢化の波が押し寄せるなか、日本の国立大学はかつてない変革の時を迎えています。名古屋大学が打ち出した「特許収入を4倍に引き上げる」という目標は、まさに大学経営の自立を目指す挑戦の象徴と言えるでしょう。これまでは国から提供される運営費交付金が大きな支えとなってきましたが、その予算が減少傾向にある今、大学が独自の財源を確保することは、教育や研究の質を維持するための至上命題となっています。
2017年度の統計を紐解くと、全国の大学が企業から受け入れた研究資金は約960億円に達し、前年度から112億円もの増加を見せました。数字だけを見れば順調に思えますが、その内訳には大きな課題が隠されています。実は、企業からの資金のうち約6割が「共同研究」に費やされる一方で、特許などの「知的財産(知財)収入」はわずか4%程度に留まっているのです。この現状を打破することが、大学の未来を左右する鍵となるはずです。
社会実装と指定国立大学法人の高いハードル
政府は2025年までに、企業から大学への投資を2014年比で3倍に拡大するという野心的な目標を掲げました。ここで重要視されているのが「社会実装」という概念です。これは研究で得られた高度な知見や技術を、単なる論文発表で終わらせるのではなく、実際の製品やサービスとして社会の課題解決に役立てることを指します。特許収入は、その技術がどれだけ市場価値を認められたかを示す、極めて具体的な指標として注目されています。
文部科学省が2017年から開始した「指定国立大学法人制度」も、この動きを加速させています。世界最高水準の研究を目指す大学を指定するこの制度では、国境を越えた研究者との「国際共著論文」の比率だけでなく、特許収入の割合も厳格に評価されます。つまり、名実ともにトップクラスの大学であり続けるためには、卓越した研究成果をしっかりと「稼ぐ力」に結びつけるビジネスセンスが、これまで以上に強く求められているのです。
SNS上では、この名大の攻めの姿勢に対し「大学も自立が求められる時代になった」「税金頼みではない、健全な競争が生まれるのは良いことだ」という肯定的な意見が目立ちます。一方で、基礎研究がおざなりにならないか、あるいは短期的な利益追求に走らないかといった懸念の声も一部で上がっています。しかし、財政基盤を強固にすることは、結果として長期的で自由な研究を支える防波堤になるのではないかと私は考えます。
共創による産業力の底上げを目指して
名古屋大学の松尾清一学長は、2019年08月24日の取材に対し、交付金に依存しない「自ら稼げる大学」への転換が必要だと強く訴えました。実際、多くの大学では特許申請やライセンス交渉を行う専門スタッフを配置する余裕がありません。そこで名大は、自校の利益だけでなく、他大学との連携を視野に入れています。知財運用のノウハウを共有し、日本全体の研究成果を組織的に活用する仕組みづくりが、産業力の向上に直結すると見ているようです。
編集者の視点から言えば、この名大の取り組みは、学問の象牙の塔が社会という市場に力強く足を踏み出した歴史的な一歩だと感じます。特許という知的財産が正当に評価され、その利益が再び次世代の研究に投資される「循環型モデル」の構築こそ、資源の少ない日本が生き残る唯一の道ではないでしょうか。大学が「知の拠点」であると同時に「価値創出の源泉」へと進化する姿は、これからの教育界のスタンダードになるに違いありません。
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