2019年6月7日、家電量販店のエディオンは、大阪のミナミ地区に同社最大の旗艦店となる「なんば本店」をオープンさせました。この新店舗は、従来の家電量販店の常識を打ち破る、革新的な仕掛けが満載されているのが特徴です。久保允誉会長兼社長は「家電と娯楽を融合した店を作り上げた」と語っており、その年間集客目標はなんと2,000万人と、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)に匹敵する水準を目指しています。同社は、なんば本店で確立した「なんばスタイル」を今後、他の店舗にも展開する計画で、製造小売り(SPA:Specialty store retailer of Private label Apparelの略で、自社で商品の企画・製造から販売までを一貫して行うビジネスモデルのこと)にも乗り出し、家電市場における「新世界」を創造しようと意気込んでいらっしゃいます。
開店前の午前10時前には、雨が降る中にもかかわらず、多くの来店客が列を作り、店内は朝から活気に満ち溢れていました。週に一度は家電量販店を訪れるという49歳の男性客は「ゲームやドローンにはびっくりした。これまでの家電量販店とは全然違う」と、驚きの声を上げています。9階建てで売り場面積が約1万5,000平方メートルに及ぶ広大な空間には、顧客の五感を刺激するような「体験」を重視した売り場が随所に設けられているのです。
例えば、8階には「日本忍者協議会」が世界で初めて認定したという「忍者屋敷」が設けられており、手裏剣投げなどを体験できます。エディオンは来場客の約3割をインバウンド(訪日外国人観光客)と想定しており、オーストラリア人の50代の女性客など、この日も外国人観光客を中心に行列が見られました。単なる「モノ消費」(製品を購入すること)に留まらず、「コト消費」(体験やサービスを楽しむこと)を狙っていることが、この忍者屋敷からもよくわかります。
しかし、単に娯楽性を高めただけではございません。3階のヘッドホンコーナーでは、1,000個以上のヘッドホンを試聴可能にし、来店客がじっくりと製品を比較検討できるよう配慮しています。友人と来店した27歳の女性は「ヘッドホンを探しに来たけれど、選びきれないほど種類が豊富」と、その品揃えの多さに驚かれていました。また、5階のコーヒーメーカー売り場では、購入した豆をその場で焙煎(ばいせん:生豆を煎って加熱すること)し、すぐにコーヒーを試飲できる仕組みを導入しています。新晶取締役専務執行役員は「家電の魅力、楽しさを伝え、購入につなげる」ことを狙いとしており、製品の持つ本質的な価値を体験を通じて伝えることに重点を置いているのでしょう。
なんば本店は、エディオンが近年推進している事業の多角化の要素も凝縮しています。2階の「eスポーツ」売り場には、パソコンやマウスといった関連機器が揃っているのはもちろん、55インチのパネルを9枚並べた競技場も設置されています。エディオンは2018年10月にプロeスポーツチームとのスポンサー契約を結んでおり、この施設は全国都道府県対抗eスポーツ選手権の大阪予選会場としても利用される予定です。また、2018年12月より小中学生向けのロボットプログラミング教室を開設している同社は、なんば本店のロボットコーナーでも豊富なラインナップで、未来を担う子供たちのロボットへの関心を高め、2021年3月までに200カ所開設という目標に向けた弾みとしたい考えです。
家電市場の成長鈍化に立ち向かうエディオンの挑戦
エディオンがこのような新戦略を打ち出す背景には、家電市場の成長期待の鈍化があります。2011年の家電エコポイント制度の終了や地上デジタル放送への移行以降、市場規模は年間約7兆円と横ばい状態が続いており、同社の連結売上高も2011年3月期のピークを超えられていません。さらに、量販店の収益源であったメーカーからのリベート(販売奨励金)も減少傾向にあるとされています。ヤマダ電機が住宅メーカーを買収して「家まるごと提案」に進むなど、大手家電量販店の間ではすでに「脱・家電量販」の動きが広がりつつあり、ビックカメラは非家電製品に力を入れ、ノジマは「もはや家電量販店ではない」と公言するまでに至っています。
こうした厳しい市場環境の中、久保社長は「家電は売り方を工夫すればまだまだ伸びる」と強い自信を示されています。そして、同社が推進する重要な戦略の一つが、プライベートブランド(PB)の開発です。2018年に立ち上げたPB「イーアングル」は現在9種類の製品をラインナップしており、今後、大型家電製品の企画も水面下で進めている模様です。この「イーアングル」は「くらしを、新しい角度から」をコンセプトに掲げ、大手メーカーが手掛けていない斬新なアイデア製品を多く生み出しており、その目の付け所の鋭さには理由があるのです。
PBの企画・開発部隊を率いているのは、元シャープ常務の新晶取締役専務執行役員です。新氏の指揮のもと、メーカー出身者10人弱のチームがアイデアを出し合い、ゼロから新しい製品を開発しています。例えば、ヒーターと消臭機能付きのトイレ照明は、冬場の寒さ対策だけでなく、臭いへの配慮というニーズにも応えるという、まさに「目の付け所がイー(良い)でしょ」と言いたくなるような製品です。今後発売予定の「eリフレッシュミスト」は、水道水からオゾン水(オゾンの溶け込んだ水)を生成して衣類の消臭ができるため、ランニングコストがほとんどかからないという利点があります。
エディオンは、直営店だけでなく、フランチャイズチェーン(FC)加盟店にもPB製品の販路を拡大し、2020年度には200億円の売上目標を掲げています。同社は今後、SPAとして、「家電量販」や「脱・家電量販」とは一線を画した「第三の道」を模索しているのです。なんば本店の実験的な側面は強いものの、軌道に乗れば「体験・体感」のコンセプトを他の店舗、特に郊外のロードサイド店にも展開していく方針です。同社は、新製品の使い方を紹介する動画をバックヤードのスタジオで撮影し、これをネット通販だけでなく、他の店舗の従業員教育用映像としても活用するなど、全社的な販売力の強化に繋げようとしています。私は、既存のビジネスモデルに安住せず、新しい顧客体験を追求するエディオンのこの挑戦は、成熟した市場において非常に重要な一手であると考えています。
なんば本店は、現時点では「未完成」だと久保社長はお話しされています。家電を売るだけのビジネスモデルではないため、「売り上げはやってみないとわからない」という側面もありますが、その革新的なコンセプトと、家電の魅力を再発見させるような「試して買うて」という姿勢は、必ずや多くの読者を魅了するでしょう。SNSでも「忍者屋敷で手裏剣投げしながら最新家電をチェックできるなんて斬新!」「コーヒー豆を焙煎してから試せるのは感動もの」といった、驚きと期待の声が多く寄せられており、注目度の高さが伺えます。エディオンの挑戦が、日本の家電量販店の未来をどう変えていくのか、目が離せません。
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