2019年08月23日現在、金の国際市場がかつてないほどの熱気に包まれています。目先の需給を反映する「期近物(きぢかもの)」に比べ、数ヶ月先の価格を示す「期先物(さきもの)」の値段が跳ね上がるという、極めて珍しい現象が起きているのです。足元では1トロイオンスあたり10ドル前後もの価格差が生じており、これは世界的な景気後退を危惧する投資家たちの「悲鳴」が市場価格に形となって現れたものと言えるでしょう。
ニューヨーク先物市場では、2019年08月物に対し、取引の主役である2019年12月物が1510ドル前後という、約6年4カ月ぶりの高値圏で推移しています。SNS上でも「金が止まらない」「有事の金買いが本格化している」といった投稿が相次ぎ、資産防衛への関心はピークに達しているようです。通常、先物取引では保管コストなどを上乗せした「順ざや」という状態になりますが、現在の価格差はそれだけでは説明がつかないほど拡大しています。
異常な価格差を生む「米追加利下げ」への期待感
本来、金は持っているだけで利息を生む資産ではありません。そのため、中央銀行が金利を下げる「利下げ」局面では、相対的に金の魅力が高まり、価格が上昇する傾向にあります。2019年07月末、米連邦準備理事会(FRB)は約10年半ぶりとなる利下げに踏み切りました。市場はこの決定に敏感に反応し、さらなる「追い利下げ」を確実視しています。この期待こそが、数ヶ月先の金価格を押し上げている大きな要因です。
専門用語でいう「フェドウオッチ」とは、米国の金利先物の動きから市場が予測する利下げ確率を算出した指標のことですが、これによると年内にあと2〜3回の追加利下げを見込む声が支配的です。金利が下がれば、資金を銀行に預けるよりも金で持つ方が有利だと判断する投資家が増えるのは当然の帰結でしょう。こうしたマネーの動きが、2019年12月のマーケットを今よりもさらに過熱させると予想されているのです。
泥沼化する米中対立と「合意なき離脱」の影
もう一つの大きな要因は、国際社会を揺るがす政治経済のリスクです。2019年08月01日、トランプ政権が対中制裁関税の「第4弾」を発表したことで、貿易摩擦はもはや解決の糸口が見えない泥沼の状態に陥りました。さらに欧州に目を向ければ、2019年10月末に期限を控える英国のEU離脱問題が影を落としています。ジョンソン政権による「合意なき離脱」の可能性は、世界経済にとって極めて大きな不透明要因です。
私は、現在の金価格の歪みこそが、人類が直面している「将来への不安」を最も純粋に数値化したものだと考えています。理論上の価格を超えて「先物」が買われるのは、裏を返せば、年末の世界が今より良くなっていると信じられない人が多い証拠ではないでしょうか。単なる投資商品としてではなく、混迷を極める現代社会の「鏡」として金相場を注視する必要があります。私たちは、この輝く貴金属が示す警告を真摯に受け止めるべきでしょう。
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