「仮想通貨(暗号資産)」「eコマース」「暗号化通信」――これらのキーワードは、通常であれば革新的なスタートアップ企業の話題を連想させます。しかし、今、世界最大のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)である米フェイスブック(Facebook)が、この3つを軸にした大胆な事業の方向転換を進めているというのです。世界のデジタル広告市場をグーグルと二分するITの巨人が、なぜ、そしてどのように変わろうとしているのか、その衝撃的な背景と戦略を深掘りしていきましょう。
フェイスブックの広告事業は、その巨大さゆえに長年にわたり高い収益を生み出してきました。しかし、一方で、ユーザーが持つ膨大なデータ(個人情報)を活用したターゲティング広告は、世界的な政治情勢を左右しかねないとの懸念から、危険視されるようになってきました。このような社会的な圧力が高まる中で、フェイスブックは従来のビジネスモデルからの業態転換を余儀なくされている、と見ることができるでしょう。
プライバシー重視の「居間づくり」へ舵を切る!ザッカーバーグCEOの宣言
この大転換のビジョンは、2019年3月にマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)が突如発表した「プライバシーに焦点を当てたソーシャル・ネットワーキングのビジョン」に集約されています。「広場づくりから、居間づくりへ」というスローガンは、誰もが参加できるオープンな場での情報交換から、親しい友人や知人同士で閉じた安全な場へとサービスの核心を移すことを明確に宣言したものといえるでしょう。
具体的には、メッセージの内容を暗号化し、フェイスブックでさえ内容に関知できないようにする通信が中心になるとのことです。さらに、メッセージが1日経てば自動的に消滅する仕組みも導入されます。これにより、データの漏えいリスクや、一度投稿された情報が過度に拡散して社会に予期せぬ影響を与えることを防ぐ狙いがあるのでしょう。このプライバシー保護を強化する動きは、近年のSNS疲れや情報セキュリティへの意識の高まりを受け、SNSユーザーから好意的な反響を得る可能性が高いと思われます。
しかし、高収益を誇ってきた広告事業を手放し、どのように収益を確保していくのかは大きな焦点となります。これまでは、ユーザーの投稿を促し、そこで表示される広告と、ユーザーのデータを利用したプロファイリング(個人を特定・分析し傾向を把握すること)によって広告効果を高めていました。この仕組みが企業の評判を下げた一因にもなりましたが、この高収益の柱を容易に手放すことはできないと誰もが考えるでしょう。
金融サービス・eコマース進出:仮想通貨「プロジェクト・リブラ」の衝撃
その答えとして、現在取り沙汰されているのが、金融サービスや商取引の分野への本格的な進出です。2019年5月、米ウォール・ストリート・ジャーナルは、「フェイスブックは仮想通貨を用いた決済システムを構築中」と報道しています。このプロジェクトは「プロジェクト・リブラ」という名称で、個人間の送金サービスやeコマース(電子商取引)の開発が1年以上前から進められているというのです。このプロジェクトの実現に向け、英BBCによれば、ペイパルの元幹部や多数のエンジニアを採用し、企業買収や提携交渉も積極的に行っている様子が伺えます。
このように巨大な船体を持つフェイスブックが大胆な方向転換を成功させられるのか、誰もが注目しているところですが、実はグループ内にはその教師役となるサービスが存在しています。写真共有サービスのインスタグラムでは、写真や動画、テキストを一体化した「ストーリー」機能が大人気を博し、広告も効果的に組み込めることでグループの好業績を牽引しています。さらに、インスタグラムは2018年からeコマースにも着手し、ストーリーからワンタップで商品が購入できる仕組みをすでに構築しています。また、対話アプリのワッツアップ(WhatsApp)は、すでに強固に暗号化されたメッセージ機能を提供し、当局にも内容を開示しないという徹底したプライバシー保護の姿勢を貫いています。
一方で、金融サービス分野はフェイスブック周辺では未経験の領域です。小口資金を安価に送金したいという需要は、銀行サービスが十分でない新興国だけでなく、キャッシュレス社会を目指す日本のような先進国でも極めて大きなものとなっています。フェイスブックのサービスが持つ操作の容易さと安全性が両立できれば、寄付やチップといった新たなビジネスモデル、たとえばファンクラブのような仕組みが生まれる可能性も秘めていると分析できます。私見ですが、フェイスブックの圧倒的なユーザー基盤を考えれば、この金融・決済分野への進出は、世界経済のあり方を根底から変える可能性を秘めていると断言できるでしょう。
しかし、すでに中国では「微信(ウィーチャット)」などのSNS決済サービスが驚異的に普及しており、日本でも数多くの決済サービスが動き始めています。フェイスブックが取り組むとみられる仮想通貨を活用した応用技術が、これらの先行陣営を凌駕できるかどうかは、高いハードルが待ち構えているといえそうです。その技術的な課題や、各国政府の規制への対応など、乗り越えるべき壁は少なくないでしょう。今後のフェイスブックの動向からは、一時も目が離せません。
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