2019年6月1日、東京・丸の内のようなオフィス街は土曜日にもかかわらず、リクルートスーツに身を包んだ若者たちが行き交い、独特の熱気に包まれていました。この日は2020年春入社の新卒採用において、大手企業が本格的な選考を開始する「選考解禁日」にあたるためです。既に内定を出している企業も存在するものの、学生たちは本命企業の面接に向かう緊張した面持ちで、就職活動のヤマ場を迎えている様子がうかがえます。
2019年の新卒採用市場は、前年以上に学生優位の「売り手市場」が顕著になっているといえるでしょう。就職情報会社ディスコの調査によると、選考解禁日である2019年6月1日時点での内定率は71.1%と、前年を5.4ポイントも上回る結果となりました。しかしながら、企業側は「採用活動が順調である」と答えたのがわずか25%にとどまり、「苦戦している」との回答が48%を占めているのです。このデータは、多くの企業が採用計画通りの学生を確保できていないという、厳しい現実を浮き彫りにしています。
採用難は今後さらに深刻化すると、浜銀総合研究所の遠藤裕基主任研究員は警鐘を鳴らしています。特に2021年以降、採用活動は一段と厳しさを増す見通しであり、これは「新卒採用の2021年問題」として認識すべき課題です。この問題の根拠となっているのが「22歳人口」の推移です。2010年代はほぼ横ばいであったこの人口が、2022年を境に明確な減少トレンドへと入っていくため、2021年の就職戦線から学生の獲得競争が激化すると予想されています。
日本は1989年に、一人の女性が生涯に産むと推計される子どもの数を示す「合計特殊出生率」が1.57という戦後最低の数値を記録し、少子化が大きな社会問題となりました。しかし、1990年代は、出産適齢期の女性人口が増加したことで、出生率の低下が出生数の急激な減少を補い、年間出生数はそれほど減少しませんでした。しかし、2000年代に入ると、この人口構成上の効果が薄れ、年間出生数が減り始めます。国の将来推計人口(2017年推計)によれば、2020年には124.4万人であった22歳人口が、2022年には122.7万人、2025年には115.1万人、そして2030年には110.9万人へと急激に減少していく見込みです。これは、企業が獲得を目指す人材プールの規模が、今後急速に縮小していくことを意味しているのです。
人口減少時代を生き抜くための企業の革新的採用戦略
このような人口動態の変化の波を乗り越え、優秀な新入社員を獲得するためには、従来の画一的な採用手法を刷新し、工夫を凝らすことが極めて大切になります。既に革新的な取り組みを始めている企業も現れています。例えば、トランスコスモスは2018年に「3years Return Pass(スリーイヤーズ・リターン・パス)」を導入しました。これは、内定を辞退した学生に対し、入社を辞退してから3年間にわたって、優先的な選考と入社する権利を保障するというものです。他社に入社したものの、期待していた仕事内容と現実とのギャップなどから早期に退職する「第二新卒」と呼ばれる層をターゲットにした、先を見据えた対策だと言えるでしょう。
また、東急エージェンシーは「留年学生に限定した採用ルート」を新設するという異色の試みを行っています。多くの企業が留年をネガティブな要素として敬遠するなかで、「留年は、むしろ財産である」という逆転の発想のもと、幅広い応募者を確保しようという狙いが見て取れます。このように、従来の採用の枠組みにとらわれず、多様な価値観や経験を持つ学生を迎え入れる企業側の姿勢が、これからの採用難時代を勝ち抜く鍵になるでしょう。
一方で、学生側も「売り手市場だから安泰」と油断することは禁物です。前出の遠藤氏は、22歳人口の急減は、従来の「新卒一括採用制度」そのものの見直しを促す可能性があると指摘しています。採用の難易度が上がっても、企業は「期待しているレベルに達していない学生」を無理に採用するのではなく、新卒採用に代わって、社会人経験者を対象とした「キャリア採用」を広げていく可能性が高い、と見ています。この予測は、学生にとってのライバルが、就職活動中の同級生だけでなく、スキルを持った「社会人」になることを意味しています。したがって、学生の皆さんは、大学生活のうちから、企業が求める「働く力」を意識的に身に付けていかないと、今後の就職戦線で勝ち残るのは難しくなるでしょう。
私見ではありますが、企業が人材獲得に苦心するこの時代は、学生側にとっても企業側にとっても、真の意味での「実力」が問われる転換期だと捉えることができます。企業は、従来の「新卒」という肩書きに囚われず、個々の能力や経験を正しく評価する柔軟性が求められます。また、学生は「内定を取ること」をゴールとするのではなく、社会人としての基礎力や専門性を高め、自分自身の市場価値を向上させることに注力することが、将来にわたるキャリアを築く上で非常に重要になってくるでしょう。
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