日本を代表する経済紙である日本経済新聞社において、にわかには信じがたい内部不正事件が発生し、世間に大きな衝撃を与えています。2019年09月04日、東京地検は同社の元社員である大塚辰彦被告を、同僚のパソコンを盗み出したとする窃盗の罪で在宅起訴しました。この事件は、単なる備品の持ち出しという枠を超え、企業の根幹を揺るがす重大な情報流出へと発展しているのです。
事件の始まりは、今から約7年前の2012年10月にまで遡ります。当時、デジタル販売局に在籍していた被告は、社内で総務局員が使用していた時価およそ8万9千円相当の業務用パソコンを盗み出しました。注目すべきは、彼が単に端末を欲しがったわけではない点です。被告は盗んだパソコンを自ら解体し、内部に格納されていた記憶媒体であるハードディスクを抜き取るという、極めて計画的で執拗な行動に出ていました。
このハードディスクには、日経社員約3000名分に及ぶ生年月日や月々の給与額といった、極めて秘匿性の高い個人情報が記録されていたことが判明しています。被告はこれらの機密情報を自分のパソコンへ転送したのち、ポータブルな保存器具であるUSBメモリーに格納しました。そして2017年12月、それらのデータを外部の月刊紙発行団体へと郵送するという、暴挙に及んだのです。
SNS上では、このニュースに対して「内部犯行は防ぎようがない」「給与データが流れるのは恐ろしすぎる」といった不安の声が相次いでいます。また、かつて優秀な人材が集まるとされた大手メディアでの不祥事に、組織のモラル低下を危惧する意見も散見されました。多くの人々が、信頼を売りにする企業の足元で起きたこの裏切り行為に対し、強い憤りを感じている様子が伺えます。
今回の事件で適用された「窃盗罪」は、他人の財物を不法に占有することを指しますが、当初は「不正競争防止法違反」での立件も検討されていました。これは企業の持つ「営業秘密」を守るための法律ですが、検察側は証拠や供述を精査した結果、まずは確実な窃盗罪として起訴する道を選んだのでしょう。法的な解釈は専門的ですが、情報の価値そのものを盗んだという実態は極めて悪質と言わざるを得ません。
情報社会の死角と企業に求められる倫理観
日経側は2018年01月から、弁護士やデータ解析の専門業者を交えた徹底的な調査を続けてきました。幸いなことに、顧客情報の外部流出は確認されなかったものの、社内の管理体制の甘さが露呈した形となります。筆者の視点から述べさせていただければ、デジタル化が進む現代において、物理的な端末の管理がこれほどまでに容易に突破された事実は、多くの日本企業にとって他山の石とすべき教訓ではないでしょうか。
日本経済新聞社は既に被告を懲戒解雇しており、広報室を通じて「情報管理の徹底を改めて図る」と、事態を重く受け止めるコメントを発表しています。しかし、一度失墜した信頼を回復させるのは容易なことではありません。内部の人間による悪意ある行動をいかに抑制し、透明性の高い組織を構築していくのか。情報の守り手であるはずのメディア企業には、今こそ真の覚悟が問われていると言えるでしょう。