2016年10月13日、タイ全土を深い悲しみが包み込みました。70年という驚異的な長きにわたって国を支え続けたプミポン・アドゥンヤデート国王、すなわちラマ9世がこの世を去ったのです。タイ語で「9」という数字は「カオ」と発音され、これは「前進」や「進歩」を意味する「カオ・ナー」という言葉の響きに重なります。国民にとって、この数字は明るい未来を象徴する極めて縁起の良いものとして愛されてきました。
第2次世界大戦後、東南アジア諸国が共産主義の波に飲み込まれそうになる危機的な状況下で、ラマ9世は巧みなバランス感覚でタイの近代化と発展を導きました。その功績は計り知れず、国民にとって彼は単なる君主を超えた、精神的な支柱であったと言えるでしょう。SNS上でも、当時の追悼の様子は「一つの時代が終わった」という喪失感とともに、世界中に拡散されたことが記憶に新しいところです。
しかし、偉大な父の後を継ぎ、2016年12月01日にワチラロンコン国王がラマ10世として即位すると、人々の間には言い知れぬ不安が広がり始めました。「10」という数字に対し、一部の国民は「この先がないのではないか」という予感めいた恐れを抱いているようです。これは単なる迷信ではなく、長年心の奥底に押し込めてきた王政の在り方に対する根源的な問いや、社会への不満が表面化しつつある兆候と言えます。
こうした一触即発の緊張感が漂うタイの世相を鮮烈に描き出したのが、ウティット・ヘーマムーン氏の小説『プラータナー』です。本作は、個人の抱く激しい「欲望」と、国家の「混迷」を巧みに交差させ、読者を圧倒的な熱量で惹きつけます。SNSでは「現代タイのリアルを突きつけられる」「美しさと生々しさが同居している」といった、読者からの熱い反響が相次いで寄せられている注目の作品です。
編集者としての私の視点では、本作は単なる一国の歴史物語に留まらず、人間の根源的なエネルギーが政治や社会とどう対峙するかを描く普遍的なドラマだと感じます。ラマ9世という巨大な重石が外れた今、タイの人々が何に救いを求め、どこへ向かおうとしているのか。その蠢くようなエネルギーを、物語を通じて体感できるはずです。変革の時期を迎えたタイの「いま」を知るために、必読の一冊と言えるでしょう。
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