【EV技術の最前線】フォーミュラEを制した高効率・軽量EVパワートレーンの秘密!SiC半導体活用で充電時間半減へ

電気自動車(EV)版のフォーミュラカーレースであるフォーミュラE(FE)は、単なるモータースポーツではなく、次世代EV技術のノウハウを蓄積する重要な開発の場として、その注目度を高めているのはご存じでしょうか。自動車メーカーだけでなく、主要な部品メーカーも積極的に参戦し、公道走行可能なEVへの技術フィードバックを目指しています。自動車部品大手のドイツZF社が、「ヴェンチュリー・フォーミュラEチーム」に供給した革新的な電動パワートレーンは、まさにこの技術開発の粋を集めたものだといえるでしょう。

ZF社がFE「シーズン5」(2018年12月~2019年7月開催)向けに開発したこの駆動装置は、最高出力250キロワット、最大トルク3500ニュートン・メートルという高性能を誇りながら、徹底的な高効率化と軽量・高出力密度化が図られています。このパワートレーンに加え、減衰特性を柔軟に調整できるダンパー(サスペンションの振動を抑える部品)も提供され、チームは2019年3月に香港で開催されたレースで見事な初優勝を飾ったのです。

FE用の電動パワートレーン開発において、ZF社でテクニカルマネジャーを務めるトビアス・ホフマン氏は、その開発優先順位を「1番が効率、2番が質量(重さ)、3番が加速性能」と明言しています。レースという極限の状況では、バッテリー容量が限られるため、いかに電気エネルギーを無駄なく駆動に変換できるかという高効率性が、勝敗を分ける最も重要な要素となることが分かりますね。これは、私たちが日常的に利用するEVの航続距離向上や電費改善にも直結する、非常に重要な指針だといえるでしょう。

ZF社は、コース情報から導出した負荷変化の形態(プロファイル)に基づき、3つのパワートレーンコンセプトを比較検証しました。その結果、最も効率が高く、質量も軽かったのが、変速機を使わない1速のギアボックスを用いたコンセプトだったのです。ホフマン氏によると、全開加速と全制動を繰り返すFEでは、変速時のエネルギー損失と、変速機構を搭載することによる質量の増加を避けるため、変速段数を減らすのがトレンドになっているとのことです。最終選定されたパワートレーンは、搭載性を考慮した平行軸型のギアボックスを採用し、内部には遊星歯車機構を用いた機械式差動制限型差動歯車装置(LSD)と平歯車による減速機が組み込まれています。

高効率化を実現するため、ZF社はモーターやギアボックスの回転慣性(回転し続ける力)の低減、モーターの冷却方法の工夫、制御ソフトウェアの改善、そしてシステム全体での損失低減に注力しました。具体的には、モーターやギアボックスの小型化、最大トルクを満たせる範囲での最終減速比(駆動輪の回転速度とモーターの回転速度の比)の最小化、回転部品の軽量化などを図っています。また、モーターの冷却にはギアボックスの潤滑油を流用するなど、細部にわたる工夫が見られます。

さらに質量の低減も徹底されており、電力制御に使う主要部品であるパワー・コントロール・ユニット(PCU)の筐体には、軽量かつ高強度な炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、ギアボックスの筐体には軽量合金を適用しました。加えて、3次元プリンターや**ラピッドプロトタイピング(RP)**といった先進的な生産技術を駆使して部品の薄型化を図り、耐久性に関するマージン(安全を見込んだ余裕)を最小化することで、軽量化と耐久性のバランスを追求しているのです。

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次世代半導体SiCを搭載!EVの高電圧化と充電時間短縮への挑戦

効率向上に向けたもう一つの先端技術が、次世代半導体素材として注目を集める炭化ケイ素(SiC)製のパワー素子のPCUへの適用です。これにより、800ボルトという高電圧で駆動できるPCUの開発に成功しました。ZF社は、SiCを使う利点として、同じバッテリー容量でも航続距離を5~10%延長できることと、高電圧化によって急速充電時間を短縮できることの2点を強調しています。

例えば、400ボルトのバッテリーを800ボルトに高電圧化すれば、理論上、充電時間を半減することが可能です。ZF社は、将来的に400キロメートルを走行するための充電時間が15~20分程度になるだろうと、その効果に自信を示しています。この航続距離の延長は、SiCが従来のケイ素(Si)の10倍という優れた絶縁破壊電界強度を持つため、同じ電圧に耐えるための素子の膜厚を10分の1に薄くできることに起因しています。膜厚が薄くなると、パワー素子の内部抵抗が減少し、結果として効率が向上する仕組みです。

SiCは200度以上の高温でも動作するため、冷却システムの小型化が可能になるのも大きなメリットです。さらに、効率の向上によってバッテリーの小型・軽量化が図れるほか、高周波数で駆動できるため、周辺部品の小型化も実現できます。これらの相乗効果によって、PCU自体のコストは上がるものの、システム全体としてのコスト低減につながるとしています。

しかし、SiC製パワー素子を用いたFE向けPCUの開発には課題もありました。それは、素子の駆動電圧と耐電圧のマージン(余裕)をいかに小さくするかという点です。マージンを小さくすると、モーター駆動のパルスを印加した際に発生するスパイクノイズが大きくなり、素子の耐電圧を超えてしまう恐れが高まります。この点について、ZF社はハードウェアとソフトウェアの双方で工夫を凝らし、最小限のマージンで運用できるように設計しているとのことです。

これらの最先端技術を投入した結果、ZF社の「シーズン5」向け電動パワートレーンは、全体の効率を驚異的な95%超にまで高めることに成功しました。加えて、シーズン4で採用されていたパワートレーンと比較して、20%の軽量化と35%の出力密度の向上を達成したのです。この技術革新は、まさに公道走行EVの高性能化、特に航続距離の延長や充電時間の短縮といった、ユーザーが最も望む進化を加速させるための大きな一歩となるでしょう。

SNS上でもこの技術に対する関心は非常に高く、「FEは実験室としても優秀だ」「SiCの普及でEVの使い勝手が一気に向上しそう」といった期待の声が多数見受けられます。量産化の目標として、ZF社は3年後から4年後をめどに、800ボルト駆動のSiC製PCUの量産を開始したい考えを示しており、2025年時点では従来のPCUと比べてシステムコストを1%低減しながら、WLTCモード(世界共通の燃費・電費測定基準)での効率を3~5%高くできると予測しているそうです。FEで培われたこの高効率・軽量化の技術が、私たちの未来のEVライフを大きく変えることになるのは間違いないでしょう。

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