日産自動車の経営が、かつてない激震に見舞われています。2019年09月13日、これまで組織を牽引してきた西川広人社長兼CEOが、不適切な報酬の受領を理由にその座を退くこととなりました。カルロス・ゴーン元会長による事件の傷跡が癒えぬ中、再びトップの不祥事が露呈したことで、市場からは「裏切られた」という悲痛な叫びが上がっています。投資家たちの期待は、今や深い失望へと塗り替えられてしまいました。
この混乱の余波は、日産が3年ぶりに計画していた社債発行の延期という形で、具体的な実害を及ぼしています。社債とは、企業が投資家から資金を借りるために発行する債券のことですが、日産は今回、予定していた2500億円もの資金調達を断念せざるを得ませんでした。不正の事実を伏せたまま発行を強行すれば、後に価格が暴落した際に訴訟問題へ発展するリスクがあるためです。市場の「番人」である東証も、日産の統治体制に厳しい眼差しを向けています。
連鎖する不正の闇と、揺らぐ経営陣のガバナンス
日産は2019年06月に、ガバナンス(企業統治)の改善報告書を提出したばかりでした。しかし、西川氏をはじめ、星野朝子副社長やハリ・ナダ専務執行役員ら、経営の中枢を担う複数の幹部までもが不適切な報酬を受け取っていたことが判明しました。これには日本取引所グループ(JPX)も「報告内容が不十分であれば再提出を求める」と強い警告を発しています。身内を庇うような姿勢が、結果として組織の自浄能力に対する疑念を増幅させてしまったのです。
内部調査の結果は当初、「道義的な問題はあるが法的問題はない」という、極めて甘い表現に留まっていました。これに対し、社内からも「責任を明確にすべきだ」との怒りの声が噴出しました。結果として、社外取締役も巻き込む形で西川氏の早期辞任を迫る動きが加速し、2019年09月09日の取締役会でついに決着がつきました。トップが執務室に引きこもり、周囲を疑心暗鬼の目で見るような状況では、もはや健全な経営判断は不可能だったと言えるでしょう。
過酷なリストラと業績悪化、いばらの道の再建計画
日産を取り巻く数字は、目を覆いたくなるほど深刻です。2020年03月期の連結純利益は、前期比で約半分にまで落ち込む1700億円と予想されています。SNS上では「リストラで現場に痛みを強いる一方で、上層部が報酬を不正に受け取るとは何事か」という批判が渦巻いています。世界14拠点でのライン停止や、1万2500人規模の従業員削減という過酷な再編が始まろうとしている中で、リーダーシップの欠如は致命的な欠陥となります。
現在、日産の時価総額は1年間で約1兆3000億円も消失しました。トヨタやフォルクスワーゲンが着実に価値を高める中、日産だけが競争のスタート地点から脱落しかけています。さらに、格付け会社からは「経営の不安定さ」を理由に格下げの圧力がかかり、資金調達コストの上昇という悪循環に陥っています。2019年10月末までに選出される次期CEOには、過去のしがらみを断ち切り、透明性の高い経営を即座に実行する手腕が求められます。
個人的な見解を述べさせていただくと、今回の日産の混乱は、単なる一個人の不祥事ではなく「企業文化の機能不全」そのものです。従業員に痛みを強いる改革を推し進めるのであれば、経営層にはそれ以上の潔白さと覚悟が必要不可欠です。次世代の「自動運転」や「コネクテッドカー」という激しい競争を勝ち抜くためには、まず壊れた信頼の土台を作り直すことから始めるしかないでしょう。日産の再生は、まさに今、正念場を迎えています。
コメント