日本の風景に欠かせないガソリンスタンドが、今まさに100年に一度の大きな転換点を迎えています。かつては激しい価格競争に明け暮れた業界ですが、国内元売りの再編が一段落した2019年9月現在、市場はようやく落ち着きを取り戻したかのように見えます。しかし、その背後には「クルマ離れ」や「脱炭素」という巨大な波が押し寄せており、もはやガソリンを売るだけでは生き残れない時代がすぐそこまで来ているのです。
SNS上では「最近のスタンドはカフェや洗濯屋がついていて便利になった」という声が上がる一方で、「近所のスタンドが次々と廃業して不便だ」という切実な投稿も目立ちます。実際に、2018年度の給油所数は3万70カ所と、ピークだった1994年度の約半分にまで減少しました。こうした危機感を背景に、業界最大手のJXTGエネルギー(現・ENEOS)などは、給油所を「地域密着型のサービス拠点」へと作り変える壮大なビジョンを掲げ始めています。
ピザを買いにスタンドへ?「給油しない客」を呼び込む逆転の発想
東京・渋谷にある出光興産の「セルフ代々木サービスステーション」では、驚くべき光景が広がっています。2019年9月上旬、そこには車ではなく「徒歩」で訪れる客の姿がありました。彼らのお目当ては、敷地内に併設された「ピザハット」の焼きたてピザです。車を持っていない層を取り込むこの戦略は、従来の「給油のついでに買い物をする」という常識を覆し、「ピザを買いに来たついでに給油を思い出す」という新しい動線を生み出しています。
こうした異業種連携は、単なる客寄せの域を超えています。出光のリテールマーケティング部は、消費者の「ライフパートナー」になることを目標に掲げており、生活に密着したサービスを提供することで、ガソリン需要の減少を補おうとしています。実際にピザのチラシに給油クーポンを付けたことで、ガソリンの販売量が約5割も伸びた店舗もあり、既存のインフラを多角的に活用する「ハイブリッド型店舗」の可能性が証明されつつあると言えるでしょう。
私自身の見解としては、この「場所貸し」に留まらない攻めの姿勢こそが、停滞する日本経済の起爆剤になると感じます。ガソリンスタンドは、コンビニに匹敵する一等地に広大な敷地を持つ最強のリアルネットワークです。ここを物流のラストワンマイルの拠点や、高齢者の見守り支援、さらにはシェアリングエコノミーの窓口として再定義できれば、それはもはや単なる「給油所」ではなく、街の心臓部として機能し始めるはずです。
次世代自動車「CASE」の足音と、石油王者のプライドをかけた業態転換
現在、自動車業界では「CASE」という言葉がキーワードになっています。これは「Connected(つながる)」「Autonomous(自動運転)」「Shared & Services(シェアリング)」「Electric(電動化)」の頭文字を取った造語で、自動車の概念そのものを変える技術革新を指します。電気自動車(EV)が普及すれば、当然ながらガソリンの需要はさらに激減します。この破壊的イノベーションに対し、コスモエネルギーや出光は2019年からカーシェア事業への参入を本格化させました。
かつて90年代にも異業種連携の試みはありましたが、当時は「結局はガソリンを売るための手段」という考えから抜け出せませんでした。しかし、現在はJXTGホールディングスの杉森務社長が「生活関連のあらゆるサービスを提供する」と断言するように、本気度が違います。コインランドリーやドライブスルーカフェの併設など、車で訪れる利便性を最大限に活かした「滞在型拠点」への脱皮が、生き残るための絶対条件となっているのです。
米国ではすでに「Speedway」のようなコンビニ一体型モデルが成功を収めており、日本も「ガソリンも扱う小売業」への発想転換が求められています。2019年4月の出光と昭和シェルの統合を経て、業界は大手による寡占化が進み、経営基盤は安定しました。しかし、この安定はあくまで「嵐の前の静けさ」に過ぎません。膨大な顧客データを武器に、次世代のライフスタイルを提案できるか。石油元売りの「稼ぐ力」の真価が、今まさに試されています。
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