2019年6月15日の時点、世界的な経済メディアやSNSでインドの株式市場が大きな注目を集めています。同国では、歴史的な株価の高騰と、金融システム内のミニ危機が同時進行するという極めて異例の状況が発生しているからです。インド経済は、一見華々しい「最高値更新」の裏側で、“ガラスの最高値”とも称されるほどの脆弱性を抱えていると言えるでしょう。
象徴的な出来事として、2019年6月3日、インドを代表する株価指数であるムンバイ証券取引所のSENSEXが、観測史上初めて4万の大台を超えて引けました。この株高は、富裕層の資産価値を膨らませ、消費を刺激する兆しを見せています。例えば、6月4日には首都ニューデリーの高級ショッピングモールで、韓国のサムスン電子が1台260万円もする8Kテレビの発表会を開催し、富裕層からの予約が想定外に入るなど、株高と高級消費の「共振」が生まれつつあることが示唆されたのです。
しかし、この美しい共振のシナリオは、非常にもろい基盤の上に成り立っています。インド株のPER(株価収益率)は現在20倍に達しており、これは日本の13倍や米国の17倍と比較しても、割高感が際立っています。PERとは、企業の利益に対して株価が何倍になっているかを示す指標で、一般的に数値が高いほど株価が過大評価されている可能性があるとされます。
🚨最高値の裏で進行する金融システムのほころびと信用収縮のリスク
株価が史上最高値を付けた6月3日、金融システムは危機的な警鐘を鳴らし始めました。格付け大手のフィッチ・レーティングスが、ICICIを含む大手銀行の格付けを投機的等級に引き下げたのです。さらに翌日の4日には、住宅金融会社によるデフォルト(債務不履行)、つまり約束された債務の支払いが不可能になる事態が表面化し、同社の債券を組み入れた投資信託の価格が暴落する事態となりました。
このような状況が続けば、金融機関はリスク回避のために融資を手控える「貸し渋り」に走り、結果として企業や家計も支出を絞らざるを得なくなります。実際に、この状況を封じるため、インドの中央銀行にあたるインド準備銀行(RBI)は6月6日に追加の利下げに踏み切り、「十分な流動性を供給する」と表明して市場の冷静さを保とうとしました。
現在の株価上昇は、中央銀行が金融緩和によって危機を食い止めるだろうという**「中央銀行への過信」を当て込んだものと言っても過言ではありません。この脆弱な状況について、機関投資家向け調査会社の英コンティニューム・エコノミクスのチャル・チャナナ氏は「信用や流動性の低下は容易に解決しない。大規模な倒産が起きるリスクがくすぶっている」と述べ、株高の中での警戒感を隠していません。
金融システムがインド経済の弱点であることは明らかです。ずさんな審査や景気の停滞を背景に、不良債権比率は2018年に11%を超えました。これは、日本のバブル崩壊後のピークであった2002年の約9%を上回る水準で、この高すぎる不良債権こそが、金融機関の貸し渋りを通じて実体経済を傷つけているのです。
その証拠に、2019年1月~3月期のインドの経済成長率は5.8%と4四半期連続で減速しており、中国の6.4%をも下回っています。毎年、新たに生まれる千数百万人もの就職者を吸収するためには二桁成長**が必要とされるインドにとって、この成長鈍化は非常に憂慮すべき事態です。
💡モディ政権に求められる改革の「地力」とソーシャルビジネスの可能性
こうした現状だからこそ、2期目を迎えたナレンドラ・モディ首相には、一時の株高に安住せず、経済の地力を根本から高め、金融システムの安定を実現することが強く求められています。不正蓄財をあぶり出す高額紙幣の廃止などの改革で「改革派」の印象を強めてきたモディ首相ですが、ここへきて**「息切れ」が指摘されています。米戦略国際問題研究所(CSIS)の観測によれば、2017年7月以降、完了した改革は一つもないという厳しさです。
失業率が悪化するなか、市場が最も期待しているのは、雇用の担い手である企業の成長を促す改革でしょう。ここで、モディ首相のヒントになり得る南部のバンガロールにある運送会社「コネクトインディア」の事例をご紹介しましょう。2015年に創業した同社は、従来の配送網から取り残されていた地方の農村までAmazonなどの商品を届ける仕組みを構築しました。
同社は、地元の零細な雑貨店や薬局「キラナ」をパートナーとし、配送料を分け合うことで、自宅まで届ける「最後の1マイル」の配送を委託しました。現在では、約7,500のパートナーが徒歩や自転車で1日5万件の配送を担い、インド全土で3万人の雇用創出にも貢献しています。コネクトインディアは2019年の黒字化を見込んでおり、同国を代表するインパクト投資家であるアビシュカールなど、海外マネーも流入しています。
コネクトインディアの成長は、貧困や衛生などの社会問題が残るインドにおいて、ソーシャルビジネスが経済成長と国民の生活水準向上を両立させる潜在力を持っていることを証明しています。政府がこうしたソーシャルビジネスを積極的に支援することで、経済の安定化と、通貨ルピーの安定に不可欠な外国人投資家**の呼び込みにつながるでしょう。
🌍世界への警鐘:バブルの罠を避ける歴史の教訓
インドの状況は、実は同国に留まらず、世界経済への重要な警鐘でもあります。景気悪化を恐れた中央銀行が金融緩和に傾き、その「緩和マネー」が株式市場に向かい、株高を引き起こす構図は、ここ数週間の世界の市場に共通して見られる現象です。その先にあるのは、かつての歴史が証明するバブルの罠に他なりません。マネーの中央銀行に対する過信こそが、バブルの山を高くし、崩壊後の谷を深くしてきた歴史を、私たちは忘れてはならないのです。
今こそ、2007年の米国で起きたサブプライムローン(信用度の低い個人向けの住宅融資)危機を振り返るべきでしょう。この危機が露呈した際、米連邦準備理事会(FRB)は8月に緊急利下げで鎮静化を図り、ダウ工業株30種平均は10月に史上最高値をつけました。この**「パニック、緩和、歴史的な株高」という流れは、今のインドの状況と酷似しています。
当時の米政府やFRBは、株高に安堵し、危機の震度を過小評価して金融システムのテコ入れを怠った結果、翌年のリーマン・ショックという大惨事を迎えました。インド、そして世界は、今回の株高で油断してしまうのか、それとも抜本的な改革を進めて株高を実体経済に裏付けられたものへと正当化する道を選ぶのか、その選択が迫られています。
歴史の教訓を重視する投資家たちは、12年前の悲劇を教訓として、投資する国の選別に取り掛かっていることでしょう。世界は今、インドの最高値に潜むガラスの危うさ**から目をそらさず、本質的な経済構造の改善へと向かう必要があるのです。
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