2019年の夏は、まさに天国と地獄が表裏一体となった劇的なシーズンとなりました。記録的な長雨と日照不足に悩まされた2019年7月から一転、2019年8月は日本列島を強烈な猛暑が襲いました。気象庁のデータによれば、東京の日照時間は180時間を超え、前月の2倍以上に達しています。この劇的な天候の変化が、停滞していた消費マインドを鮮やかに塗り替え、衣料・靴専門店13社のうち12社が増収を果たすという驚異的な結果をもたらしました。
SNS上では「やっと夏服が着られる!」「セールの戦利品が即戦力すぎる」といった投稿が相次ぎ、お盆休みの帰省やレジャー需要と重なったことで、街中のショップは熱気に包まれています。特に注目すべきは、長らく苦戦を強いられていた「しまむら」の復活劇でしょう。2018年4月以来、実に16カ月ぶりとなる既存店売上高の前年超えを達成しました。今回の勝因は、衣料品のみならず、生活シーン全体をカバーする戦略が功を奏した点にあると考えられます。
しまむら躍進の立役者は、自社開発の冷感素材ブランド「ファイバードライ」を駆使した寝具類です。これは吸水速乾や接触冷感(肌が触れた瞬間に熱が移動し、冷たく感じる機能)に優れた素材で、熱帯夜を乗り切るための必須アイテムとして爆発的な支持を集めました。さらに、インフルエンサーとして絶大な人気を誇る女性モデルを広告に起用したことで、手薄だった若年層の取り込みにも成功しています。トレンドを素早く形にする企画力が、再び輝きを取り戻した印象を受けますね。
ユニクロ・マックハウスが魅せた「猛暑対策」と驚異の客数増
業界の巨人であるユニクロも、2019年8月は9.9%増と盤石の強さを見せつけました。機能性肌着の代名詞である「エアリズム」や、一枚でスタイルが決まる「ブラトップ」といった夏の大定番が、この暑さで改めて買い求められた結果です。SNSでも「エアリズムなしでは外に出られない」という声が溢れ、生活必需品としての地位を確立していることが伺えます。消費者が「より快適に、より涼しく」という実利を求めた結果が、数字にそのまま表れた形となりました。
一方で、13.6%増という驚異的な伸び率を叩き出したのがマックハウスです。同社はお盆休みに合わせたセールで、夏物を思い切った「処分価格」で展開する勝負に出ました。これにより客単価こそ下がりましたが、それ以上に「安く夏物を揃えたい」という顧客を呼び込み、客数を2割以上も伸ばしています。デフレマインドが根強い中で、消費者の「お得感」に対する嗅覚は非常に鋭くなっており、価格設定の妙が明暗を分ける重要なファクターであると再認識させられます。
「働き方改革」の波に押されていた紳士服業界にも、久々に明るい兆しが見えています。青山商事やAOKIホールディングスでは、通気性に優れたクールビズ対応のワイシャツが好調でした。最近はオフィスでのカジュアル化が進んでいますが、それでも「涼しく清潔感を保てるビジネスウェア」への需要は依然として高いと言えます。編集者の視点から見れば、単なるスーツの販売ではなく、いかにビジネスマンの「不快感」を解消できるかというソリューション提案が今後の鍵を握るでしょう。
秋物への切り替えが明暗を分けた8月後半の戦略ミス
しかし、全ての企業がこの追い風に乗れたわけではありません。唯一の減収となったライトオンは、新作の「和紙デニム」など意欲的な商品があったものの、8月後半の気温低下への対応が遅れてしまいました。和紙デニムとは、天然の和紙繊維を織り交ぜることで軽さと調湿性を実現した高機能素材ですが、季節の変わり目に必要な長袖シャツなどの投入が遅れたことが響いています。ファッションビジネスにおいて、天候の変化を先読みするスピード感がいかに重要かを物語る結果となりました。
靴専門店のチヨダは、夏物セールと同時に「新学期需要」を狙った子供靴のキャンペーンを展開し、5%増と前月の落ち込みを見事にカバーしました。西松屋チェーンでも水遊び道具やタンクトップが売れるなど、子供向け市場は天候に非常に敏感です。親心としては「短い夏を思い切り楽しませてあげたい」という心理が働くため、夏休みの後半戦をどう盛り上げるかが重要です。こうした季節行事と気象状況をリンクさせた販促こそが、リアル店舗の底力と言えるのではないでしょうか。
2019年8月の好調ぶりは、天候という不確定要素に支えられた側面が強いのも事実です。しかし、各社が展開した「高機能素材」や「SNSを活用したプロモーション」は、消費者のニーズを確実に捉えていました。今後は、突然の冷え込みや長雨といった異常気象を前提とした、より柔軟な在庫管理と商品供給が求められるでしょう。私たち消費者のライフスタイルに寄り添い、変化を恐れないブランドこそが、次なるシーズンでも笑顔を見せることができるはずです。
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