2019年09月09日、記録的な暴風を伴い千葉県を直撃した台風15号は、私たちの生活の命綱である電力を無残にも奪い去りました。発災から1週間が経過しようとする2019年09月16日現在もなお、県内では深刻な停電が続いています。驚くべきことに、復旧の切り札として準備された「電源車」の稼働率は全体の3割弱に留まっており、救えるはずの現場に光が届かないという異常事態に陥っているのです。
SNS上では「目の前に電源車が止まっているのに、なぜ電気がつかないのか」「高齢者施設が見捨てられている」といった悲痛な叫びや、初動の遅れに対する厳しい批判が相次いでいます。現場では、高機能な設備を抱えながらも動かせないジレンマと、刻一刻と体力を奪われる被災者の焦燥感が交錯しています。このミスマッチが起きた背景には、組織の構造的な欠陥と、想定を上回る通信障害という二つの大きな壁が存在していました。
千葉市若葉区にある特別養護老人ホーム「更科ホーム」では、2019年09月09日から4日間にわたり電気が途絶える過酷な環境を強いられました。110人もの入所者が蒸し風呂のような室内で耐え忍び、半数以上が熱中症を訴えて救急搬送される事態に至ったのです。職員の方々が必死に氷や飲料水で対応したものの、2019年09月11日に要請した電源車が到着したのは翌日の夜でした。あと一日早ければ、これほどの苦痛は避けられたはずだと現場は無念さを滲ませています。
「国家資格」の壁と人員配置の致命的なミス
なぜ337台もの電源車がありながら、稼働できたのはわずか96台だったのでしょうか。その理由は、電気を扱う際の厳格なルールにあります。電源車を稼働させるには、高い専門知識を持つ「電気主任技術者」という国家資格保持者と、現場指揮を執る東電社員の双方が立ち会わなければなりません。電気主任技術者とは、受電設備や配線の安全を監督する、いわば「電気の保安官」ともいえる重要な役割を担う専門家です。
しかし、今回の災害ではこの「保安官」たちが、各地で寸断された電柱の復旧作業に忙殺されてしまいました。電源車と技術者のスケジュールが全く噛み合わず、機材があっても動かせる人がいないという、組織運営上の致命的なミスが発生したのです。東電側も「事前の調整さえあればスムーズに稼働できた」と非を認めており、2019年09月17日からはようやく技術者と社員がペアで動く体制へと舵を切りましたが、その決断はあまりに遅すぎたと言わざるを得ません。
一方、要請を出す自治体側の情報網も、台風によってズタズタに引き裂かれていました。電話が通じないことで、どの福祉施設がどれほど困窮しているのかという実態把握が大幅に遅れたのです。千葉県が全施設の状況を掴めたのは、2019年09月13日の夕方。上陸から丸4日が経過していました。現代社会において、通信の遮断がいかに「公助」のスピードを奪うかを物語る、非常に恐ろしい事例となってしまいました。
今回の教訓は、機材の数だけを揃えても、それを動かす「人」と「情報」の連携が機能しなければ無意味であるという現実です。大規模な災害経験が少なかった千葉県や東電にとって、今回の事態は手痛い授業料となりました。今後は、有事の際に誰がどこへ向かうべきかを事前にシミュレートする広域訓練が不可欠でしょう。命を守るための電気を、二度と「宝の持ち腐れ」にしてはならないと強く感じます。
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